2017年8月24日
無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・最終回
花田庚彦氏(以下、花田) そろそろ、まとめに入りましょうか。
編集部(以下、編) 西村さんはPCやネットが大好きで、大好きで、というタイプではなかったわけですよね。
西村博之氏(以下、西村) まあ多分、そうですね。
編 それがどうして、今のお仕事のような世界が視野に入ってこられたのですか?
西村 便利だからというのが1つです。それともう1つは、さすがに今は無理だと思うのですが、僕が手を出した当時というのはまだ企業が本気で大金を突っ込んでサイトを作る時代ではなかったので、個人が太刀打ちできる状況だったんですね。
現在は個人サイトが話題を集めるというような話は、アプリならまだありますけど、ネットではほとんど聞きません。ですから僕が入った頃は、まだまだ広大なフロンティアが存在していた、かなり楽な時代だったと思います。
編 個人的な話で恐縮ですが、私は1996年に初めてインターネットにアクセスしたんですが、確かに個人サイトばかりでしたね。そもそもYahoo!で検索すると、結果がフォルダで表記されていました。
西村 サーファーと呼ばれる人たちが、人力で検索結果を整理していた頃ですね。
編 そうです、人力がYahoo!の売りでした。
本堂まさや氏(以下、本堂) ディレクトリ型ですか。
編 僕は「どこが楽しいんだろう」と全く理解できなかったんです。あの頃に可能性を見出されたというのは、やはり只者ではないという印象を受けるのですが。
西村 僕が2ちゃんねるを作った時はアメリカにいました。海外でも日本の情報が手に入る場所というのは便利だろうなという考えがあったんです。
また電話を筆頭に、1対1で人がコミュニケーションを行うメディアはたくさんありましたが、n対nで大勢の人が話をするメディアというのはインターネット以外に存在しなかったんですね。
昔なら雑誌の読者欄が、それに最も近いものの1つだと思いますが、あれは編集側がピックアップしたものだけが掲載されていたわけです。何もかもがオープンに書けて読めるというものはネットしかできないし、それは面白いはずだと思ってやってみると、実際に面白い。面白いと思って続けていたら、それなりに回るようになって、次第に会社としても大きくなっていったという感じですね。
編 Niftyの会議室とは異なるのですか?
西村 そういう意味では、パソコン通信の延長線ですね。
編 パソコン通信は、やっておられたのですか?
西村 やっていました。ですから割と、そうした文化に、すんなりと入っていけたのかもしれないですね。
編 自分にとって面白いもの、というのが基本だったということですか?
西村 いえ、違います。「自分にとって面白いもの」ではないですね。
編 となると、どう表現して下さいますか?
西村 編み物の掲示板は、僕にとっては何の興味もありません。でも、2ちゃんねるには、そういう掲示板があります。人が話す場所をつくったら、それでどういう話をするのだろうというような、人がどう動くのかを見たいという観察したいほうが先で、それが僕個人にとって役に立つかどうかというのはそんなに重要視していなかったのです。
編 2000年に東北地方で、相当な高齢者の方が、2ちゃんねるを使って保険の情報を熱心に見ていたんですね。あれには感動しました。
西村 地方の方が、情報が欲しいとネットしかないという状況が、早く訪れました。アメリカも似たようなものです。
花田 じゃあ本当に、まとめの質問をしよう。結局、2ちゃんねるで最高、どれくらい儲けたの?(笑)
西村 最高ですか?(笑)
花田 最高月収にしようか。
西村 月収でカウントしたことはないですね。でも、一番儲かっていたのは、『電車男』が売れていた時で間違いないと思います。
花田 最盛期のアクセス数って、どれぐらいあったの?
西村 アクセス数は、すぐにカウントしなくなったんですよ。
花田 面倒なの?
西村 一応、出そうと思えば出せるんですけど、あまり出すことに意味を感じないんですよね。
本堂 ひろゆきの面白さは、数えきれないほど取材を受けているはずなのに、将来のビジョンといった「決め台詞」を持っていないところです。飄飄とした、という言葉は、ひろゆきのためにあるものでしょう。
西村 そんなに皆さん、決め台詞を用意しているんですか?(笑)
本堂 僕はないですけどね(笑)
西村 決め台詞がある人の方が少ないですよ。
本堂 でも、「将来のビジョン」といったことは必ず訊かれるはずですよね。それに答えを用意していないわけでしょ?(笑)
花田 政治家になる気が絶対にないじゃない。
西村 ないですね。
編 そこが堀江貴文さんとの最大の違いという説は根強いものがあります。
西村 堀江さんは本当に社会をよくしようと考えて出馬したんですから、偉いですよ。
花田 ひろゆきは思っていないの?
西村 無理でしょう(笑)
編 でも以前、かなり辛辣なことを仰っておられましたよね。「堀江さんは、お金が入ってこないと自己承認されない人なのでしょう」と指摘しています。
西村 経営者というのは大体、そういうものではないでしょうか。会社を大きくして、上場させて、それで自己承認をなし遂げる。
編 西村さんは、そういう自己承認を必要としていないですよね?
西村 そういう意味で、僕は経営者ではないですね。
本堂 経営者ではなく、管理人だと?
花田 なるほど。
編 それ、まとめに使わせてもらえると助かります(笑)
西村 いや、管理人でもないです。何でしょうね。例えば孫正義さんや三木谷浩史さんというのは、やはりちょっと、どこか壊れていると思うんです。
自分が使うお金のために働いているわけではないですよね。あのライバルに勝ちたい、会社を大きくしたいという方に力点を置いているわけですけど、それは結局のところ抽象的な、実態のない目標という気がするんです。僕は、もっと寝たいとか、ゲームをやりたい、という方に力点を置きます。
編 楽をするために、どうやって収入を得るかが大事と、先ほどから仰っています。
西村 ゲームと仕事は、僕の中でランクは一緒です。仕事もゲームもパズル。だからやるという感じですね。
編 ワーカホリックですか?
西村 ゲームと仕事がごっちゃですからね。仕事が面白いと思うと、結果として長い時間を投下するので、ワーカホリックに見られる場合もあります。
編 逆に、「この人はいつ働いているんだろう?」と不思議がられる時間帯もあるということですね?
西村 まあ、大体そうですね(笑)
編 ゲームから仕事へのモードが変わるのは、どういう時なんですか? 降ってくるんですか、それとも探すんですか?
西村 探している時もありますし、続けていると面白くなる時もあります。
編 最近、ワーカホリックモードになられたことはありますか?
西村 4chanを引き継いだときは、割と面白いと思っていました。やはり外国人のほうが狂っていますからね。日本人というのはある程度モラルのラインがあるのですけれども、もう英語圏の人たちは全然ないので面白いなと思いました。
花田 これで、ひろゆきが、いい人に仕立て上げられるかな?(笑) 適当な人間というのを全面に出した方が面白いけどね。
西村 別に、いい人ではないと思いますよ(笑)
花田 じゃあ、平成の植木等ということにしておこう。
西村 まさか(笑)
編 それこそ、ご自身を形容する表現などは、お持ちなんですか?
花田 だから平成の植木等だって(笑)
西村 自分に優しい、ですかね。
編 他人には?
西村 時と場合によります。
編 厳しい時もある?
西村 どうでしょうか。ただ、自分ができないのが分かっていますから、他人に強要はできません。だから僕は人を怒れないんです。遅刻する人を怒れませんよね。僕が遅刻するんですから。
編 怒れないという性格は、どれぐらいまで遡れるんですか?
西村 昔から、人の失敗や欠点を指摘することはできました。ただ、怒るというのは……。あまり僕は人に怒ってこなかったですね。
編 「それは問題だ」とは言えるが、「問題じゃないか!」と怒りは爆発させられないということですね。
西村 怒鳴りたいという状況にはなりません。
花田 じゃあ、最近怒ったことは何?
西村 さっきから考えていますけど、思い付かないですね。
編 奥さまにも?
西村 ないです。怒られることはいっぱいありますけど(笑) 他人を怒って物事がうまくいったという経験が、多分人生でないんでしょうね。
編 怒られたことはありますか?
西村 それは小さい時から、いっぱいあります。
編 ご自身も怒られて、物事はうまくかなかったですか?
西村 そうですね。遅刻を怒られて遅刻癖が治ったらよかったですが、やはり変わっていないですからね。本堂さんは怒ります?
本堂 私も怒ることはないですね。怒って物事がうまくいかないということではなく、単純に怒るタイプではないという感じです。もしくは、周りが私に気を使ってくれているのかもしれません。
花田 後者です(笑)
西村 何をされるか分からないから(笑)
本堂 ひろゆきと一緒で、僕も嫁にはすごく怒られます(笑)
編 最後に1つだけ、お願いします。ゼロ年代の象徴という感じで取り上げられることが少なくないですが、どのようなお考えをお持ちですか?
西村 ゼロ年代の象徴という取り上げられ方をされましたか? 76世代ということで名前が挙げられたことはあると思いますけど。
編 76世代でも大丈夫なのですが、そう言われても好きも嫌いもなく、特等席から眺めている感じですか?
西村 76年生れでネットをやっている人間、ということで僕がピックアップされただけですからね。それに特別な意味はないと思っています。
編 事実は事実だが、その他には何の意味もない、という感じですか?
西村 76世代は全員が性欲強いとか言われたら反論しますけど、76年生れですが、それで何かありますか、ということですね。
編 世代論の象徴的人物として名前が挙げられたことはあると思うのですが。
西村 氷河期世代としてくくられている部分はあるなと思います。社会に対して、それほど期待をしていないんですよ。バブル世代の人は全てにおいてとてもやる気があるじゃないですか。
編 確かに西村さんの頃は、最も酷い氷河期でしたね。
西村 僕らより年下になると、ネットはビジネスをする場です、というようにビジネスに重きを置きます。でも僕はビジネスをするためにやっていたわけではなく、面白いからやっていただけという派閥ですから、そういう意味では、ある種の世代の象徴として取り上げられるかもしれないとは思います。
編 本当に、ありがとうございました。
西村 ありがとうございました。
(了)
2017年8月18日
無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第11回
西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第11回は、書き込み削除要請に関する、極めて実戦的な法律論が盛り上がった。
◇第10回記事(リンク)
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000522/
■―――――――――――――――――――― 【写真】政府広報オンライン「インターネットを悪用した人権侵害に注意!」の「法務省:不当な書き込みの防止に向けたポスター」より
(http://www.gov-online.go.jp/useful/article/200808/3.html)
■――――――――――――――――――――
編集部(以下、編) 「日本人の若者はデモをしない」「日本人はデモをしても暴徒化することはない」などという常識を信じていますが、崩れないという保証は全くないというわけですね。
西村博之氏(以下、西村) 経済、景気がよくなれば常識が維持されるかもしれませんが、少なくとも今のところ、経済状態の好転は望めません。そういう意味では、常識の崩壊は時間の問題という気がします。
編 デフレから脱却しないですからね。
西村 デフレと不景気を、ごっちゃにしていませんか?
編 少なくとも現時点では、イコールではないのですか? バブル崩壊後、日本経済は一貫してデフレであり、だからこそ不景気である、というわけですよね。
西村 僕はデフレのおかげで、そこまでの不景気にはなっていないと考えています。
編 物価が安くなることで、購買力が確保されているというわけですか?
西村 モノが買えなくなると、それこそ死ぬしかありません。物価が安くなっているから、何とか買える。それで何とか収まっていると思います。
編 デフレ経済下で業績を伸ばした会社には、例えばユニクロやサイゼリヤがあります。
西村 でも値段を上げたユニクロは売れなくなり、更に下げたしまむらは業績を伸ばしています。本当に安いモノしか、誰も買わなくなりました。
花田庚彦氏(以下、花田) (本堂まさや氏を見ながら)普通ではない人は、こうして高価なスーツを着ていますけどね(笑)
西村 (笑)
本堂まさや氏(以下、本堂) 確かに普通ではないかもしれません(笑) そもそも、まだ弁当(註:執行猶予)が2年、残っていますから。
花田 残っていたっけ!?
西村 残ってたんですか!?
※編集部註
本堂氏は2013年、有料放送を無料で視聴できるよう「B-CASカード」を書き換える不正プログラムをインターネット上で販売するなどしたとして、不正競争防止法違反や不正作出私電磁的記録供用罪などの容疑で逮捕。同年、京都地裁は懲役2年6月、執行猶予5年を言い渡した。
本堂 執行猶予5年ですから。
花田 5年かあ。めちゃくちゃに付いたんだね。
西村 結構、長かったんですね。
本堂 長いですよ。裁判官も最後に「まだやるんだろう」と、「再犯の恐れがある」と言っていましたから(笑)
花田 今もB-CASのことは記事にしてるの?
本堂 たまにはやってますね。
花田 たまにって(笑)
本堂 もう作り方は配信していません(笑) 実のところB-CASの問題は、有料放送を運営する会社が対応版をアップデートするんですが、そうすると違法側も更に対応するんですよ。本当は運営側が放置しておけばいいんです。ところが変に対応してしまうから、逆に儲けさせてしまっているということがあるんですよ。
編 皮肉なことに、ビジネスチャンスを作ってしまっているわけですか。
本堂 そうなんです。どうせ対応版が出てしまうんだから、結局は放っておくのが一番なんです。
西村 面白いですね。こういう悪い話を聞いたのは久しぶりです(笑)
花田 最近のひろゆきは、メディアの善人だもんね。
西村 こういう話をする人は、もう周りにいなくなってしまいました(笑)
本堂 様々な会社で役員を歴任しているわけですから、コンプライアンス問題が厳しいから、花田さんなんかとは付き合えないでしょう?(笑)
花田 僕には何の問題もないぞ(笑)
編 コンプライアンス問題は置いておきますが(笑)西村さんにも様々な変化があったにもかかわらず、体形や雰囲気、ファッションセンスは変わらないという鼎談前半の話を思い出しました。
西村 僕はパリだと大体、自転車で移動します。だから、そんなに太らないのかもしれませんね。35ユーロぐらい払うと、パリ中に20万台ぐらいあるというレンタル自転車を45分間、使えるんです。
編 マンハッタンは山手線の内側ぐらいの広さ、と言われますが、パリの広さは、どんな感じなんですか?
西村 パリも同じです。山手線の内側ぐらいですね。端から端まで自転車でも30分かからないぐらいですから、便利ですよ。
編 それだと自転車が本当に便利ですね。
花田 昔に比べると、カネも名誉も手にした。
西村 根本的には、あまり変わっていないと思うのですけれど。
花田 それは生き方のことを言ってるんだよね?
西村 はい。
花田 ひろゆきのことで強い印象に残っているのが、昔、部落解放同盟が抗議に来たことがあったよね。その時に「何も知りません、分かりません」と言い続けて、相手も諦めてしまったというね。あのスタイルが、すごく印象に残っている。
編 いつ頃の話ですか?
花田 2ちゃんねるを立ち上げて、すぐの頃だよね?
西村 最初の頃ですね。毎日、部落解放同盟から葉書が1通、届くんです。それだけなので、全くの謎でした。たまに筆跡も変わるので、1人の行為ではなかったと思います。
編 掲示板に何か載ったのですか?
西村 どこの地域が部落だという書き込みがあったんです。削除要請を受けて、「法律に触れるのであれば削除します。根拠を教えて下さい」と質問すると、「法律に触れる問題は特にない」という回答が来ました。「それではどうしようもないですね」と削除要請を拒否すると、ずっと葉書が送られてくるようになったんです。
その後、では1回話し合いをしましょうということになって、もう場所は覚えていないのですが、岡山の方と僕と、そして法務省の人と話したんです。その時に、花田さんが言ったように「何も知りません」と答えたわけです。
花田 基本、ひろゆきは、そういうスタンスですよね。
西村 知らないものは知らないので。
花田 それでずっと、20年メシを食っている。削除しようと思えば、できるんでしょ?
西村 そうですね。ただ、削除を行うには根拠が必要です。今の2ちゃんねるは、もう僕の手を離れてしまいましたけど。
編 表現の自由という言葉が出てこないのも、興味深いです。
西村 表現の自由というのは結局のところ、感情論じゃないかと思うんです。「これは表現の自由で守らなければならない」「これは守らなくてもいい」という価値判断は究極的に正しい、間違っているという判断がつけられないものでしょう。犬と猫のどっちが好きかという問題と変わりません。
編 感情論という表現も面白いですね。
西村 そうですか?
編 表現の自由は憲法で保障されている、とハードに論駁することもできるはずですよね。
西村 しかし、部落差別が禁止されているのは、憲法が理由であるのも事実です。ただ、具体的な落し所を探るには、今度は法律が必要になってくる。今の日本に「部落差別を行う書き込みは削除しなさい」と命じる法律は存在しません。必要なら作るしかないわけで、そうした法律ができたら従います。しかし、法整備が行われてないということは、必要のない法律だからとも言えます。そういう意味において、僕は自分のことを遵法主義者だと考えています。
花田 民事訴訟は結構、来てるでしょ?
西村 もうないですね。
花田 もうないんだ。
編 未払いの慰謝料が億単位という話もありましたが?
西村 10年で時効ですから、今はゼロですね。
編 もう時効を迎えたのが、そんなにあるんですか?
花田 判決が出て、慰謝料が支払われないと、内容証明を送れば時効が延長されるんじゃなかったっけ?
西村 そうです。延びます。
花田 内容証明、来てないの?
西村 基本、みんな送ってきませんよ。
花田 そうなんだ。
編 意外に諦めてしまうものなんですね。
西村 延ばしても意味がないんですよ。結局、僕からはお金が取れないし。
編 「お金が取れない」というのは半分は事実だと思います。しかし、ありとあらゆる法的な技術を駆使したら、違う結果になるような気がしますが?
西村 可能な場合もあります。ただ、そこまで努力して、それに見合うのかという話ですね。
花田 前に『電車男』を発行した時、版元の新潮社から印税を押さえた人がいたんじゃなかったっけ?
西村 そうですね。そういう方法で、頑張る人はいます。ただ、あれも新潮社が拒絶しようと思えば、法的には可能でした。新潮社は面倒くさいから払ったのだと理解しています。
本堂 DHCが、物凄い金額になりましたよね?
西村 最終的に、いくらになったのか……。400万円で、1日5万円の制裁金が付いていたはず……。いや、1日じゃなかったかな……? とにかく、何年も積み重なったので、物凄い額になったのは事実です。
本堂 ひろゆきが以前、インタビューに答えて「慰謝料を取れる権利を得ただけだ」と言っていて、確かに正論だと思いました。
西村 取るのが大変なんですよ。
本堂 回収の方が大変ですよね。
花田 回収は大変だよ。
(最終回につづく)
2017年8月10日
無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第10回
西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第10回は、「ヨーロッパと日本における、若者の共通点」を、西村氏が間近で体験した「パリ同時多発テロ事件」をベースに語ってもらう。
◇第9回記事(リンク)
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000520/ ■―――――――――――――――――――― 【写真】フランス内務省公式サイトより
(https://www.interieur.gouv.fr/)
■――――――――――――――――――――
編集部(以下、編) 他に、住んでみたい候補地というのはありますか?
西村博之氏(以下、西村) 取りあえずフランスは永住権を申請できるぐらいまではいようと思っています。
花田庚彦氏(以下、花田) あと何年?
西村 あと4年です。そうすると永住権が申請できます。
編 グリーンカードのようなものが取得できるという理解でよろしいのですか?
西村 そんな感じですね。
本堂まさや氏(以下、本堂) フランスの場合、傭兵部隊に入っても、同じものを申請できますよね?
西村 そうです、同じものをもらえます。
花田 激裏情報だ(笑)
西村 日本人でも、フランスの傭兵部隊に入った人がいますからね。
花田 ひろゆきには、赤羽台団地のイメージしかないんだけどなあ(笑)
西村 出身ですから(笑)
編 西村さんをお待ちしている間、花田さんと本堂さんが「赤羽からパリはサクセスストーリーだよな」と話しておられるのが印象的でした。
西村 でも、アニメが好きでフランスから日本へ来る人もいるでしょう。それはサクセスではなく、単なる移動だと思います。
編 でも「赤羽からパリへ」という言葉は、単なる移動を超えたイメージの広がりがあるのは事実ではないでしょうか。
西村 フランスを選んだ理由の1つに、みんなフランスに価値があると思い込んでいる、というのはありました。
花田 確かに、日本だけじゃなくて世界的に、フランスは格好いいというイメージはあるね。
西村 僕はそこまで思ってはいないんですが、勝手に誤解をされて得をすることはないかなと考えていたんです。すると、本当に2日前なんですが、初めてフランスに住んで得をしたことがありました。
2日前、あの美輪明宏さんとテレビ番組でご一緒したんです。その時、「こちらは2ちゃんねるを作られたひろゆきさんです」と紹介されると、美輪さんが「ああ、あの残念な方ね」というようなことをおっしゃったんですよ(笑)
編 いきなりですか(笑)
西村 美輪さんは2ちゃんねるが嫌いですから、僕のことも嫌いなんです。
ところが、美輪さんはフランスが大好きでしょう。だから僕がフランスに住んでいるということが分かった途端、親しげに話をしてくれました(笑)
フランスに住んで得をした、人生で得をすることがあるのだと思いましたね。
本堂 パリ同時多発テロ事件の時、テレビに出演しましたよね?
花田 出てたっけ?
本堂 見た記憶があるんですよ。
編 コメントをされたんですか?
本堂 いや、津田大介さんの電話取材を受けていませんでした?
西村 テレビではなく、ニコニコチャンネルではないでしょうか?
本堂 そういえば、そうだったかもしれません。改めて、あの時は、どんな感じだったんですか?
西村 それが、気がつかなかったんです(笑)
編 現場から離れていたんですか?
西村 東京23区で言うと、テロの現場が銀座だとすれば、そのころに僕が住んでいたのは世田谷、というぐらいの距離ですね。「何かあったらしいぞ」という情報ぐらいしかなかったのですが、戒厳令は敷かれました。自宅近くは普段なら車も人も交通量の多い場所なんですが、全く跡形もなく消えてしまって、それが面白かったですね。あちこちうろうろと散歩してしまいました。
編 パリ同時多発テロ事件は15年11月に起きましたが、そもそも同じ年の1月、諷刺週刊誌『シャルリー・エブド』本社が襲撃されましたよね。その後、パリでは自動小銃を手にした警官の姿がクローズアップされましたが、そんなパリに暮らされて、どんな感想を持たれましたか?
西村 住民の実感としては、厳しい警備のおかげで、非常に治安がいいんです。夜中に歩いても、何の危険も感じません。
花田 それだと逆に面白くないんじゃないの?
西村 いいえ、別に強盗にあいたいわけじゃないですから(笑)
夜中に歩いても、全然危険な感じがしないので、本当に楽です。それだけ、犯罪者は射殺を恐れているようですね。日本人で外人部隊に所属している人がTwitterで報告してくれましたが、彼はパリ所属ではないのですが、応援で呼ばれたそうなんです。
パリの警備に当たる際、射撃訓練を受けたそうなんですが、不審人物を発見した場合は「ムッシュ、止まって下さい」と3回警告する。しかも3回目は引き金を引きながら呼びかけろという訓練だったと言います。日本の場合は、撃つ訓練まではできないじゃないですか。
花田 できないよね。
西村 呼びかけながら撃てという訓練をしていると知って、さすがだなと思いました。普通の犯罪者なら、悪いことはできないですよ。
編 東京でも、サミットの時なんかに特別警戒を行うと結構、泥棒の逮捕者が増えたり、手配の容疑者が見つかったりすると聞いたことがあります。
花田 でも東京でもパリでも、そこまでの警戒になると、反対に地方が手薄になるから、そっちの泥棒なんかは増えるだろうね。
西村 そうですね。
編 今後の目標とか、何かお持ちですか?
西村 フランス語は、きちんと喋れるようになりたいと思っています。今は日本の中学生が卒業したときの英語ぐらいです。基本的な文法構造と単語は分かるけれども、アメリカ人が何を言っているかは全然分からないというようなレベルなのです。ですから、もうちょっとしゃべれるようにはなりたいですね。
花田 ひろゆきは、今の日本の政治について、どう思っているの?
本堂 すごいところを斬り込んできますね(笑)
花田 もう、まとめに入ってるから(笑)
西村 何だかんだ言っても、日本は自力がありますから、何とかなっているなという感じで見ています。
花田 そういう今の態勢は、ずっと続いていく?
西村 長期的なスパン、例えば30年後だと続いていないかもしれないと思います。でも10年ぐらいだったら大丈夫じゃないでしょうか。
花田 その長期的なスパンの問題が、それこそひろゆきが日本にいたら先はないと海外に出た理由の1つだよね?
西村 この国は危ないという感じはあります。ただ、今はヨーロッパの方が難民問題などで問題だらけですけど(笑)ヨーロッパの将来が本当に危険になれば、日本に戻ればいいだけの話です。ただ、日本だけが常に安全かと言うと、そんな気はしません。
編 外国にいると、日本のことがよく見えると聞きますが、どうですか?
西村 いや、よく見られるのは日本国内にいる時です。フランスにいると、日本とフランスを比較することができるので、そういう意味で「見える」ことはあります。
例えば、ヨーロッパは若者の失業率が非常に高いです。そして日本も多分、同じようになるだろうと見ているわけです。実際、若者の非正規雇用は増え続けていて、ヨーロッパでも日本でも若者の鬱憤がたまっています。
フランスで若者のデモは日常的ですが、日本でも例えばSEALDsのデモが話題になりました。どちらも解決を求めているのではなく、若い人たちが暇をぶつける対象が必要でやっているんです。本質的には一緒ですね。
ヨーロッパでは過激なグループが出現し、車を燃やしたり、警察署を焼き討ちしたりしました。日本では見られない現象ですが、僕は時間の問題だと考えています。
編 昔は日本でも、若い人たちが燃やしていました。
花田 全共闘世代とかね。でも、あの時は反対することが格好いいという風潮があったでしょう。
本堂 一種のファッションですよね。
西村 日本で、またファッションで始まったら、また広がっていきます。
本堂 ひろゆきが、その先陣に立つわけですね(笑)
花田 だね(笑)
西村 僕がやる必要ないじゃないですか(笑)
花田 充分に資格があるよ。「やるぞ」と言えば、みんなついてくる。
西村 まさか(笑)
編 冗談はさておき、日本でも再び若者が暴れますか?
西村 あまり報道されませんでしたが、東日本大震災で甚大な被害を受けた福島に若者が車で入って、色んなものを盗んで帰ったんですよね。それと同種の動きが出る可能性はあるんじゃないでしょうか。例えばデモを銀座でやるんだけど、その中の1人でも宝石を盗むことに成功した奴が出ると、次のデモからは泥棒目的の参加者が増えていく、というイメージですよね。今は「さいしょのきっかけは誰だ」ということであって、起きるのは時間の問題ではないでしょうか。
(第11回につづく)
2017年8月3日
無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第9回
西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第9回は、Twitterの「大問題」と、〝利子生活者〟たる西村氏の「生活哲学」を浮き彫りにする。
◇第8回記事(リンク)
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000518/ ■―――――――――――――――――――― 【写真】Instagram公式サイトより
(https://www.instagram.com/)
■――――――――――――――――――――
編集部(以下、編) 自分が運営している掲示板で、様々な人が蠢いている。その中には違法な書き込みも含まれているが、それを含めて〝特等席〟で見ている、というわけですね?
西村博之氏(以下、西村) Twitterで何かやらかした人が出ると、それを見て面白いと思うのと、本質的には変わらないと思います。
編 私が以前、勤務していた雑誌が廃刊になり、その話題が2ちゃんねるのスレッドになったんです。半分はデタラメな書き込みなんですけど、残りの半分は恐ろしく正確でした。完全に内部情報でしたね。特等席という表現は、分かるような気がします。
花田庚彦氏(以下、花田) 2ちゃんねるの書き込みは、当事者に近い人たちが書いているものは少なくないだろうね。
西村 へえ。
花田 相変わらず、他人事だね(笑)
西村 基本的には他人事ですから(笑)
編 2ちゃんねるの終わり、ということを想像されることはありますか?
西村 2ちゃんねるでなくとも、TwitterやFacebookでも同じことが行われているわけですから、終わらないのではないでしょうか。
編 掲示板という形式の強さがあると思うのですが?
西村 使い勝手とユーザーインターフェースの問題で、今は文字で意思疎通を行うのが基本ではあります。ですが、Instagramのように画像でコミュニケーションを行ったり、YouTubeでも動画で会話をしたりする人もいます。
そういうことを考えると、文字をツールとして使う場が減少していく可能性はあると思いますね。ただ、消滅する可能性は低いと考えています。新聞や雑誌も、文字のまま残り続けていますしね。
花田 Facebookは廃れてきているイメージだけど、実際にはどうなの?
編 若い女性が、Facebookも高齢者が使うようになって落胆したので、インスタには来ないで下さい、といったことをネット上に書いて話題になりましたよね。
西村 InstagramもイコールFacebookですから、Facebookの閉じた中でFacebookユーザーがインスタに移動するというのはあるでしょう。だからFacebook自体は、ブームは過ぎたけれども、衰退というほどでもない気はします。
衰退はむしろTwitterです。これは日本ではなくて世界の話ですが、Twitterのほうが今はまずいのではないでしょうか。世界中の会社が、ディズニー、Facebook、Googleも「Twitterは要らない」と言っています。
編 背景はどのようなところにあるのですか。
西村 コストが高過ぎる割に、広告の出しようがなかなかないのです。Twitterが出た当時にTwitter的なものを作ろうとしたことがあるのですけれども、これは投資を受けた金でやれるからやれるのであって自分でシステムを作ったら無理だなと思いました。
メールで喩えてみるとTwitterの仕組みというのは、例えばフォロワーが100万人いた場合は1つ書き込むたびに、100万人にメールを送っているのと同じ仕組みなのです。
僕がログインした瞬間に自分がフォローしている人のデータを集める仕組みだったら、ログインするまでは一切データを動かさなくていいからまだ楽なのですけれども、Twitterというのはログインした瞬間にバッと出るでしょう。
ログインしないような人というのは100万人の中で多分、半分ぐらいはログインしないと思うのですけれども、見もしないデータをずっと送らなければいけないのです。これはコストが悪すぎますね。
早晩つぶれるか、めちゃくちゃに金を払い続けるかどちらかだろうと思ったら金を払い続けるというモデルで何とかここまで来ました。ですが、やはり利益は出ないモデルですから誰も引き受けません。
編 2倍以上のフル生産をずっとしている工場のような感じなのですか?
西村 工場の比喩なら、Twitterという製造ラインは造っては捨て、造っては捨てを繰り返しているわけです。これは無駄すぎますよね。
西村氏「楽隠居願望」の原点
編 「利子生活者」という言葉なのか「楽隠居」という言い方なのか、いろいろな言い方はできると思うのですけれども、一生遊んで、しかも月3万円の範囲内で金に困らないぐらいの貯金があればいい、と思われたのは、どれぐらいの時期に遡ることができるんですか?
西村 高校ぐらいでしょうか。
編 これから一生、死ぬまで「楽隠居」できそうですか?
西村 よほどのインフレや戦争などがなければ可能かもしれませんが、僕は不可能となる可能性の方が高いと考えています。
編 とはいえ、月3万円ですからね……。
西村 だらだらと暮らせるかどうかというぐらいでしょうか。
編 利子生活が可能になると、明日、明後日、来年、5年後、10年後の行動やビジョンというものは変わりますか?
西村 変わらないと思います。ただ、日本が危なくなったら、ヨーロッパへ行こうというような、逃げ道を作っておくのが好きなんですね。
別にヨーロッパに行かなくてもいいはずなんです。日本で月3万円で暮らす方法もあるはずなんですが、あえてそういうことをしてしまう。そういうことを考えると、貯金があるかないかというのは、あまり僕に影響を与えないのかもしれません。
貯金の話なら、例えば銀行が閉鎖されたり、金融社会が完全に消滅したりする可能性もゼロではないですよね。僕は、そういう極端な未来予測も、心のどこかである程度は意識しています。
そうすると日本だけに拠点を置くのは危険ですよね。日本を切り捨てて、英語とフランス語で暮らす準備もしておこうと考えるタイプなんです。
編 究極のリスクヘッジ、という理解でよろしいでしょうか?
西村 はい、そうですね。
編 となると、お持ちの資産も、ドル・ユーロ・円というように、外貨も含めて分散させているんですか?
西村 貯金は日本円とユーロですね。
編 それはゲーム的な感覚で遊んでいるんですか? それともリアルに、日本崩壊や、ご自身が命を狙われるような危険性を予測しておられるんですか?
西村 僕の生命に危険が及んでいるわけではありませんし、実際のところ、僕の今の備えも万全というわけではないと思っています。ただ、問題を見つけたら、対処はしなければならないですよね。ゲームというより、パズル的なイメージでしょうか。
編 日本とパリにしっかりと生活の場を確保できている人が、「万全ではない」と考えているというのは、ちょっと珍しい気がします。
西村 確かに、ある程度の危険性は除去できてきているとも思います。日本だけに住み、日本円の資産しか持っていない人に比べれば、僕の方がリスクを減少させているのは確かでしょう。とはいえ、僕が想像するリスクヘッジというのは最終的に「宇宙人が地球に攻めてきたら、どう対処するか」というレベルに達しますので。
一同 (笑)
本堂 そんなことまで想定しているんですか!?(笑)
西村 だから単なるパズルとも言えるんです。本当に、そんな危険性が及ぶとは考えていないですからね。でも、核戦争の危険性を考えるなら、シェルターは用意した方がいいよな、という思考はありますね。
花田 そこまで考えるんだ、なるほどね。
西村 基本的に暇ですから(笑)
編 それって、ある種の勤勉さに通じるのではないですか?
西村 いいえ、単なる暇つぶしですね。
編 やっぱり、暇つぶしという言葉が出てくるんですね。
西村 例えば、完全犯罪をやるにはどうすればいいかというのを想像することって、誰でもあると思うんですよ。実際にする気はないですし、する必然性もない。でも考えて、「あ、1個方法を見つけた」というようなものに近いのではないでしょうか。
編 実際、それだけの資産を持っておられるわけですしね。
西村 余裕のあるうちにやっておいた方がいいのは間違いありません。
編 結局、パリに住むのも、ラトビアに行くのも、暇つぶしなんですか?
西村 うーん、何でしょうね……。日本に生まれて、日本に育ったことは、僕が選んだことではないですよね。ひょっとしたら僕は別の場所の方が合うのかもしれないという、ちょっとした期待感は持っているかもしれません。
沖縄が大好きだと思っていた人が、北海道に行ってみたらそっちの方がよかったということはありますよね。それと同じことで、色々なところに暮らした方が、住みやすい街を見つけられます。その際、大勢の人が「ここはいいよ」と褒める場所は、とりあえず住んでみたいですね。
(第10回につづく)
2017年7月28日
無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第8回
西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第8回は、懐かしい『電車男』の思い出と、アメリカ「ピザゲート」事件と西村氏の〝奇縁〟という話題だ。
◇第7回記事(リンク)
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000516/
■―――――――――――――――――――― 【写真】新潮社『電車男』特設ページより
(http://www.shinchosha.co.jp/wadainohon/471501/)
■――――――――――――――――――――
本堂まさや氏(以下、本堂) でも、そう考えると、自分の権限を他人に委譲して回していくという方針は、2ちゃんのときからきれいにそうなっていますよね。有志のボランティアなど、割と2ちゃんのポリシーに共感して対価として労働力を提供してくれている人たちというのは結構いたでしょう。
西村博之氏(以下、西村) そうですね。「この会社に入りたい」「やりたいことがあります」という人がいて、僕が「ではやってください」とお願いするのと、基本的には同じ状況でした。
編集部(以下、編) ほれぼれするような書き込みを読むたび、「才能の無駄遣い」という有名な言葉を実感しますが、そういう人たちが集まってくる場を作ったというのは、改めて凄いことだと思うのですが?
西村 今も昔も、優秀で面白い人は世の中に大勢いますよ。それがピックアップされやすくなっただけだと思います。
花田庚彦氏(以下、花田) ところで以前、2ちゃんねるの書き込みを書籍化することがブームになったけど、あの印税はどうなってたの?
西村 例えば『電車男』(新潮文庫)は、本人と僕と、まとめサイトを作った人で3分割です。
花田 本人にもいってるんだ。結構、売れたよね。
西村 売れました。100万部を超えましたから。
本堂 『電車男』いない説とかありましたよね(笑) 懐かしい。
編 当時のインタビューで、「『電車男』で成功されてよかったですね、とよく言われるが、それは違う」と喋っておられます。
西村 そうでしたか、へえ……。
花田 「へえ」じゃないよ(笑)
西村 全然、覚えていません(笑)
編 「『電車男』の前から成功していた」と仰っておられます。
西村 そうなのですか、へえ(笑)。
本堂 映画化もされて、一気にメジャーになったということでしょうかね。
花田 映画になったっけ?
本堂 なりました。
西村 映画とテレビドラマです。
編 『電車男』以降、2ちゃんねるの社会的反響が巨大化し、一部メディアの批判も強まったのは事実だと思います。例えば、あるスレッドが物議を醸し、実際に世間が騒いだとして、その時西村さんは、その騒動をどう見ておられるのですか? 意外に、世間と同じ視点を持っておられるのですか?
西村 「同じ視点」というのが、ちょっと分かりません。
編 例えば2000年、西鉄バスジャック事件が発生しました。当時17歳の犯人は、2ちゃんねるに犯行予告を書き込んでいたなど、様々なことが発覚しましたが、その時に私たちは単純に「わ、大変だ!」と驚いたわけですけど、西村さんも同じように「大変だ!」と思われるのでしょうか?
西村 何をもって大変だとするかだと思うのです。
編 どちらかといえば、大変だとは思わない?
西村 思わないですね。
編 では、どう見えているの説明をお願いするのは、難しいでしょうか?
西村 割と他人事ですね。最近の話ですと、僕は4chanというサイトの管理人をやっているのですけれど、
(http://www.4chan.org/japanese)
4chanのユーザーがショットガンを持ってピザ屋に乱入したのです。
アメリカ大統領選でヒラリー候補のメールが流出しましたが、それに関連して、あるフェイクニュースがネット上で広まったことがあったんです。内容は「ワシントンDCにあるピザ屋が、子供を誘拐して販売している。それにヒラリーが関与している」ことが流出メールから判明したというんですね。「pizza」が隠語で子供を表しているとか、ものすごい陰謀論なんですよ。
それが4chanでネタとして盛り上がっていたんですが、本当に真に受ける人がいたんですね。子供を助けようとショットガンを持って向かってしまった。少なくとも店内で1発発砲して警察に投降したんですが、大問題となってFBIなどから捜査の依頼が来るわけです。
召喚状のようなものが来たら対応するという、いつもの手続きを行うだけなんですが、やっぱり僕にとっては他人事ですね。僕が悪いことをしたわけではないですし。
ただ、起きた出来事に対して、僕が対応する必要のある作業が発生するわけですが、そのために特等席で事件を見られることがありますね。
2016年の秋頃だったと思いますが、カルフォルニアの高校で殺人事件があったのです。それの殺人予告が4chanに載っているという話があったんですね。
結論から言うと、予告を書いた人間は犯人ではありませんでした。僕も書き込みのIPアドレスがフロリダだったので、犯行時間から逆算してみると、フロリダからカルフォルニアに移動するのは不可能だと分かっていました。
ですがFBIの捜査上、提出した情報について口外してはならないという決まりがあるので、僕は「あの予告は犯人が書いたものではない」と言えなかったんです。ところがアメリカのニュースでは「4chanに予告を書いて殺人を行った犯人がいる」と報道しているわけです。それを僕は特等席で見ていた。そういう感じの面白さは感じます。
本堂 マスコミは踊らされているなと思いますね。
西村 僕が殺人予告をしたわけではないので、別に良心の呵責を感じるわけでもありませんね。
(第9回につづく)
2017年7月20日
無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第7回
西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第7回は、西村氏の「部下に権限を委譲する極意」と、バーニングマンという興味深い世界的イベントの話となった。
◇第6回記事(リンク)
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000515/ ■―――――――――――――――――――― 【写真】バーニングマン公式サイトより
(https://burningman.org/)
■――――――――――――――――――――
編集部(以下、編) 服装だけでなく、感性や思考も含めて、この20年間、全身が変わらなかったということですか?
西村博之氏(以下、西村) いえ、さすがに変わっているのではないでしょうか。昔はどのように考えていたのかは覚えていませんから、本当のところは分かりません。ですが、以前よりも長期的に考えるようにはなりました。
編 長期的、ですか?
西村 20代の頃は1年が非常に長いですが、30代になって1年が早いことに気づきました。ですから「3年後は、こうなっているだろう」と考えて、様々な種を植えるようにしたんです。
編 それを「大人になったね」と評されると、嫌ですか?
西村 別に嫌ではありません。ただ補足させてもらうと、自分1人で仕事をするより、チームで動くことが増えました。自分でやれば早い。他の人に任せると時間がかかります。でも長期的に見ると、自分ではなく他の人に任せた方が、結果的にはうまくいったことが多かったですね。
編 そのお話ですが、人を使う大変さとメリットが集約されている気がします。
西村 自分なら1時間で終わる仕事を、他の人に3日間かけてやってもらうわけです。それを積み重ねていくんですね。
編 それでも他の人に頼むのは、どうしてですか?
西村 怠け者だからではないでしょうか(笑) 僕が担当するとして、週に1回、1時間が必要な仕事を、誰かが担当できるようにして回した方が楽でしょう。新しい担当者を作る方が、僕は楽ができます。いかに楽をするかということに腐心しているんですよ(笑)
編 もっと楽をするために、長期的に、3年間の視野で考えるということですか?
西村 そうです。
編 となると「ひろゆきの人生哲学は、楽をすることにある」と強引にまとめたくなってしまうんですが、それは間違っていますか?
西村 どうぞどうぞ(笑)
編 大丈夫なんですか?(笑)
西村 別に大丈夫ですよ。
編 当たらずといえども遠からずということですか?
西村 人生哲学というのは間違っていますけどね。人間は楽をしたいから楽をするというだけのことです。
旅行で、わざと辛い思いをするのは楽しいです。知的好奇心を満たす体験で、大変な目にあうのは大好きなんです。『バーニングマン』というイベントはご存じですか? ネバダ州の砂漠で開催されるんです。1週間の期間で、6万人ぐらいが集まります。
※編集部註
8月第4週の月曜日から9月第1週の月曜日まで開催され、貨幣や商行為が厳禁とされていることが最大の特徴。電気、上下水道、電話、ガス、ガソリンスタンドといった社会インフラが全く整備されていない砂漠で、参加者は見返りを求めない「ギフト経済」で生き延びることを求められる。
花田庚彦氏(以下、花田)・本堂まさや氏(以下、本堂) 行ってましたね。
西村 何回も行ってるんですけど、ネットどころか、電気もありませんというところで、人が集まって暮らすわけです。夜は寒く、日中は暑いので、相当にハードです。水も食物も持参しただけ、というハードな状況で生活するのは割に好きなんです。
ですが仕事となると、いかに楽なルーティンを作って成果を出すかというのが、本来の目的だと思うんです。僕が何かしなければならないというのは、僕がボトルネックになることを意味します。ならば、なるべく僕を外す形を作ると、うまく回るんです。
編 ボトルネック=支障という部分を、もう少し詳しく教えて下さいますか?
西村 例えば、僕に決定を下す役割があったとします。チームがあって、僕がリーダーというイメージですね。「これは、どうすればいいですか?」と訊かれて、僕が決めないと進まないで止まってしまうわけです。
そうなら、「もうあなたたちで決めて下さい、決定の規準は以下の通りです、最初は間違っても構いません」とお願いするわけです。確かに最初は間違った決定をしてしまうかもしれません。でも、人は何回か間違うと、ちゃんと学習します。そうすると、いつしか僕の手を離れて、きちんと回っていくようになるんです。
編 そういうシステムを作るということは、20代の頃から意識的に考えておられたんですか? それとも次第に学習していくような感じだったのですか?
西村 実は、僕は朝、起きないことがあって、連絡が付きにくい人間だったんです(笑)
本堂 成長しましたよね。今日は15分の遅刻で済みました(笑)
花田 凄いよ、15分の遅刻で来たんだから(笑)
西村 ありがとうございます(笑)
編 実は私を含めて3人でお待ちしていたところ、お二人が「1時間は遅刻するよ」と仰って(笑)
本堂 1時間は、たばこをゆっくり吸えると思ってました(笑)
花田 ひろゆき時間って有名だからね。昔から平気で人を待たせる(笑)
西村 いやはや、すみません。すみません(笑)
本堂 大人になりましたね。
花田 15分になった(笑)
西村 僕がいなくて、僕がいない状態で回すようになってしまったのに、「あ、これでいいじゃない」というのはよくありました(笑)
編 その成功体験を(笑)意識的に中心に据えたんですか?
西村 遅刻は意識的なものではないですが(笑)そうした方が僕も楽ですし、チーム自体も楽になります。
(第8回につづく)
2017年7月13日
無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第6回
西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第6回は、西村氏の昔と変わらぬ〝若さ〟に話題が弾む。
◇第5回記事(リンク)
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000514/ ■―――――――――――――――――――― 【写真】グーグルショッピングで「ゴムサンダル」を検索した結果
■――――――――――――――――――――
本堂まさや氏(以下、本堂) でも世界でというと、フランスではなくスペインの選択肢もあったのではないですか?
西村博之氏(以下、西村) 英語圏の統計があって何語を覚えると給料が上がるかというのでフランス語・ドイツ語は上がるのですけれども、スペイン語は上がらないのです。
本堂 なるほど。
花田庚彦氏(以下、花田) そうなんだ。
西村 要するに、メキシコ人がスペイン語と英語の両方をしゃべるでしょう。そうすると、スペイン語が必要でしたらメキシコ人を雇えばいいのです。
だから例えば、中国語を覚えるというのは、僕は無意味だと思っているのです。それでしたら、中国人で日本語をしゃべれる者を探したほうが早い。
平均年収の高い国の言語でしたらドイツ、フランスになるのです。ラテン語系の流れで、フランス語を覚えておくとスペイン語もある程度分かるのです。昔、留学したときのフランス人の友達が「スペイン語は何となく分かるよ」と言っていたので、では同じような感じなら得をするほうのフランスにしましょうと。
編集部(以下、編) ひょっとするとポルトガル語も付いてくるかもしれないですね。
西村 でも、ポルトガル語は何か若干違うのです。
編 違うのですか?
西村 スペイン語はこういう感じだろうというのがあるのですけれども、何かポルトガル語は若干違うのです。
花田 ポルトガル語は、南米はブラジルだけだよね。
西村 そうです。ですから、ポルトガル語はあまり役に立たないです。
花田 役に立たないね。
本堂 それにしても、全然、年を取らないですね。
西村 いいえ。多分、取っていますよ。
本堂 そうでしょうか。
花田 ひろゆきは全然変わらない。
本堂 変わらないです。
西村 でも、白髪は増えました。
本堂 私も染めないと、もう真っ白ですよ。
西村 本当ですか?
本堂 真っ白です。ですから、ひげなどは本当にまずいです。
編 花田さんと初めて会われたのはいつごろなのですか?
花田 ひろゆきとは15年ぐらい前ですね。
西村 そうです。まだ髪が黒かったですから(笑)
花田 そうだね(笑)
本堂 花田さん、もっと太っていましたからね。今は激やせしてしまいましたけど。
西村 確かに、もうちょっと太っていたイメージはありますね。
本堂 いい薬を見つけたのですね。
一同 (笑)
花田 訳の分からないことを言うな(笑)
編 皆さんが面識を持たれたきっかけは、何だったんですか?
花田 きっかけは、もともと自分もアングラサイトをやっていたので、それで遊んでいたのです。それで本堂と知り合って、ネットの悪い者たちはみんな、そこからの流れです。
編 悪い者たちですか(笑)
西村 本堂さんのつながりです(笑)
花田 そうです。みんな彼が元凶ですから。
西村 本堂さんが悪い人たちを……。
花田 悪い人を引き寄せるオーラがあるのです(笑)
本堂 止めて下さい(笑) 弊社のコンプラ問題です(笑)
編 当時、西村さんの肩書というのは……?
花田 当時は、2ちゃんねる管理人だったよね。
西村 そうです。普通にホームページ制作屋さんもやりつつ、でしたね。
本堂 最初に会ったときには中央大に通っていましたね。
花田 通ってたっけ?
西村 大学生のときでしたか?
本堂 そうですよ。まだ20代の大学生で、21歳とか、22歳だったはずです。
西村 まだ卒業前ぐらいだったかもしれませんね。
花田 ロフトプラスワンでイベントをやったのは、あれは何年ぐらい? 2015年?
本堂 あれは多分2000年。
花田 2000年か……。宮台真司も来ましたね。
本堂 来ました。
西村 卒業したか、する前か、という頃ですね。
本堂 そのくらいですよね。
編 ということは、お二人から見ると、西村さんは大学生の頃から全く変わっていないんですか?
花田 服装すら変わってない(笑)
西村 服が変わっていないからでしょう。
本堂 いや、想像以上に年を取っていないですよ。久しぶりに会って、びっくりしましたから。
西村 そんなことはないです。第一、太りましたし。
本堂 美容系で、優秀な店に通っているんですか?(笑) もしそうだとしたら、教えて下さい(笑)
西村 ないですよ(笑) 服装のセンスは変わっていないのは事実で、それが大きいんでしょう。
花田 昔はゴムサン履いていたもんね。
西村 今も変わりません(笑) ちょっと高価にはなりましたけど、今の大学生が着ている服と、そんなに変わらないものを身にまとっています。
(第7回につづく)
2017年7月6日
無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第5回
西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第5回は、西村氏の「ドケチ」とは全く異なる「金の必要ない生き方」について語る。
◇第4回記事(リンク)
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000513/ ■―――――――――――――――――――― 【写真】アマゾンフランスのトップページ
(https://www.amazon.fr/)
■――――――――――――――――――――
編集部(以下、編) 知人にフランスかぶれがいるのですが、「パリほど安い値段で1日楽しめる街はない」と力説するんです。西村さんがパリに住んでいることと、西村さんが大切にしておられる「ヒマつぶし」が繋がったような気がしたんですが?
西村博之氏(以下、西村) でも、ずっと家にいるだけですから、住んでいると東京でもフランスでもあまり変わらないです(笑)
編 それでフランス語を覚えられるものですか?
西村 まあ、何とかなりますよ。覚える気になるのです。
編 覚える気になる、とは?
西村 スーパーで買い物をしたときにも一応話をしますから、覚えざるを得ないでしょう。そういうモチベーションが東京にいると一切ないですから。
編 たとえパリの自宅で1日中ネットやテレビを見ていたとしても、いつか買い物をしに外出しなければいけない、ということですか?
西村 自宅でネット通販を使おうと思っても、フランス語のサイトを見るようになるでしょう? Amazon.frを閲覧するうちに、「加湿器」という単語を覚えたりするわけです。
編 自宅に和仏辞典は必携ですね。
西村 ネットで調べますよ。紙の辞書は不便ですからね。
編 面白いですね。
花田庚彦氏(以下、花田) ひろゆきは、最後はどこに辿り着きたいの?
西村 多分、部屋で普通に映画を見て、ゲームをして、漫画を読んで終わりではないでしょうか。
花田 そうした人生を望んでいるの? というより、そういう人生に辿り着くことができるのかな?
西村 引退して、そうなりたいな、と若い頃に思っていたことが、今、実現できてますからね。
花田 今、幾つですか?
西村 40歳になりました。
花田 40歳で、引退後の夢を実現させたんだね。
西村 と言っても、30代ぐらいから実現できていましたけど(笑)
花田 確かに、そうかもしれないね。
西村 別に、そんなにお金かからないですから。
編 のんびり暮らせるな、と実感されたのは、いつ頃ですか?
西村 20代から、そう思ってました。
編 本当ですか!? 当時は今と比べ物にならない、なんて言うと失礼ですが、収入の額は全く違ったと思うんですが……。
西村 今も昔も、生活費の金額は変わっていませんから。
編 幾らぐらいなんですか?
西村 家賃を除けば、月に3万も使わないと思います。電話もしないから、電話代も常に最低額ですし。
編 家賃を除けば、年に36万円の収入で生きていけるわけですね。
西村 足ります。服も買いませんから。
編 月に3万円しか必要がない人が、それなりに多額の収入を得るということに対して、ご自身はどのように感じておられますか?
西村 例えば2ちゃんねるは最初、趣味で始めました。広告もありません。でもサーバー代を払うために広告を付ける必要が出てきた。始めれば、資金が多目に回る方がいいし、実際に回すことができた。ああ、回った、回った、という感じです。
逆に赤黒トントン、収益ゼロ、赤字ゼロを最初から狙うというのは、かえって難しいです。経営者の本堂さんなら分かると思いますけど……。
本堂 いえいえ、うちはトントンです(笑) いつもぎりぎりで何とかやってます、というレベルですから。
花田 絶対に嘘(笑) 闇のネット長者、裏のIT長者だもの。
本堂 いいえ。例えば貯金額なら、ひろゆきは私の20倍ぐらい持っていると思いますよ。
本堂 ひろゆきは持ってるよね。
西村 いいえ。
本堂 僕は使ってしまいます。全部、使ってしまうんです。
花田 確かに本堂君は使うね。
本堂 残りませんね。
西村 本堂さんは家を買ったりするし。
本堂 いえいえ、まさか家なんて、そんな……。
花田 15年間は静岡の片田舎に住んでたしね。
本堂 本当にそうですけど、あの、これって僕へのインタビューではないですよね(笑)
(第6回につづく)
2017年6月29日
無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第4回
西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第4回は、西村氏が「飛行機の旅を愛する理由」について語る。
◇第3回記事(リンク)
■―――――――――――――――――――― 【写真】ユナイテッド航空公式サイトより
(https://hub.united.com/)
■――――――――――――――――――――
本堂まさや氏(以下、本堂) ビジネスか、ファーストクラス?
西村博之氏(以下、西村) 僕は常にエコノミーです。
花田庚彦氏(以下、花田) え!? そうなの?
本堂 11時間も平気ですか?
西村 映画も見られるし、ゲームもできます。飯も食べられるし、飲み物も飲み放題で、僕は割と好きです。
編集部(以下、編) 今、タバコを吸っておられますが、機内禁煙は辛くないですか?
西村 僕はタバコがなければ、吸わなくて平気なんです。
花田 私が海外に行く時は機内の時間が面倒で、睡眠薬を飲んで寝ちゃうなあ。
編 その気持ち、分かります。
西村 映画を無料で見られるのに、もったいなくないですか?
花田 いや、9時間とか10時間とか、乗っている時間が嫌です。
西村 僕は多分、24時間でも平気です。長ければ長いほど、「次は、この映画を見よう」と思いながら寝てしまったとしても、起きて続きを見られるじゃないですか。ですから、割と楽しい感じの11時間を過ごしています。
花田 飛行機は楽しめて1時間半。それ以上は嫌だなあ。
西村 となると、映画が好きかどうかによるかもしれないですね。
編 僕も11時間の禁煙が辛くて、日本の航空会社の人に愚痴を言ったら、「もう困ったらトイレで吸うといいですよ。もちろん禁煙だけど、チェックに来るCAも黙認してますから」と教えてくれたんです。それでコンチネンタル航空のニューヨーク便で吸ってみたら、現行犯的に取り抑えられたんです(笑)
花田 そりゃ当然だ(笑)
編 僕の座っている席の真正面に、NASAの警告書を貼られたんです。アメリカ航空宇宙局だから、飛行機もNASAなんでしょうね。次に吸ったら、その時はアメリカの法律に従って処分するから覚悟しろ、みたいなことが書いてありました。
西村 ということは最初の1回目は見逃してくれるんですか?
編 そういうことなんでしょうか。アバウトに英文を読んだだけなので、責任は持てませんけど……。
西村 そうですか。いい話を聞きました。
編 CAは日本人の女性でしたけど、トイレから出たら「あなた、タバコを吸いましたね!?」と詰問されて……。
西村 アラームが鳴ったわけではないんですか?
編 アラームは鳴りませんでした。先に言った日本の航空会社の人が教えてくれたんですけど、乗客がトイレから出てくると、CAはタバコの臭いがしないかチェックしに来るんです。日本の場合は臭いがしても黙認することが多いらしいんですが、コンチネンタル航空は許さなかったわけです。
花田 トイレから出ると、CAが来ることありますよ。
西村 そうなんですか。
花田 確かに最近は、国内線でも「トイレでタバコを吸う方がいらっしゃいますが」云々というアナウンスをしてるね。
西村 そうなんですか。
編 すいません、本題に戻らせて頂きますが、アメリカに留学したから、次はヨーロッパのフランス、と考えられたんですか?
西村 そうではないです。アメリカも滞在許可証というか、10年いられるビザは持っているんです。
編 今でもですか?
西村 そうです。ヨーロッパとアメリカの両方に、自分の居場所を作っておこうということは前から考えていました。あと、なぜかマレーシアの長期滞在ビザも持っていますね(笑) 何かあったら、どこかに行けるようにしておこうという意識があって、フランスを選んだのも、フランス語が喋られるようになれば、アフリカ圏に行けるようになると考えたからです。
編 フランスの植民地だった国が多いですからね。
花田 アフリカには行った?
西村 まだジンバブエと南アフリカしか行ったことがないです。
本堂 でも凄いですよ。
花田 ジンバブエってインフレが物凄かったところだよね?
西村 今は収束しましたし、結局は米ドルを使うので。
花田 確かに、米ドルはどこでも両替できるからね。
編 先の『就職しない生き方 ネットで「好き」を仕事にする10人の方法』(インプレス)に、こんな箇所があります。
<ヒマなんで、ヒマつぶしはしたいけど、お金を払うのはいやだから、自分で作る>
西村 ほう、そんなことを言ってましたか(笑)
花田 本当に覚えていないね(笑)
(第5回につづく)
2017年6月22日
無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第3回
西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第3回は、西村氏の「フランス在住レポート」という内容だ。
◇第2回記事(リンク)
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000511/
■―――――――――――――――――――― 【写真】パリ市公式サイトより
(http://www.paris.fr/)
■――――――――――――――――――――
編集部(以下、編) 4年が経って、ラトビアの住民許可証の使い勝手といいますか、ヨーロッパの居心地はどうですか?
西村博之氏(以下、西村) 住み始めたのは2015年からです。ラトビアではなくフランスのパリ。フランスでも滞在許可証のようなものを取得しています。
本堂まさや氏(以下、本堂) なぜフランスを選んだんですか? 大学の時に1年間、アメリカに留学しているから、英語圏の方がよかったんじゃないですか?
西村 フランス語が全く喋れないので、フランスを選んだんです。
編 語学留学ということですか?
西村 僕は、ネットの仕事ができれば、住む国はどこでもいいというのがあります。その上で、僕が観察している限り人間は、ある国に住めば、その国の言葉を喋られるようになります。それなら、得をしそうな言語を覚えようと考えたんです。全然言葉を知らないフランスに住んで、フランス語を喋られるようになるか試してみたんですが、ある程度いけるので、便利ですね。
本堂 1年で喋られるというのは凄いですよ。
西村 でも日本でも外国人がコンビニで働いていますけど、別に超優秀な人でなくても、レジで日本語を喋っていますよね。
編 そういえば先ほどメールを送って頂きましたが、「iPhoneから送信」と書いてあるんだろうなというところがフランス語になっていました。
西村 フランス語になっていましたか、すいません……。フランス語を覚えようと思って、iPhoneの設定はフランス語にしているんです。
編 パリの住み心地、日常生活の実際など、どんな感想をお持ちですか?
西村 飯は旨いです。外食をしない限りは食費も安いので、かなり食生活は充実します。例えばエシレというバターがあって、日本では高級品扱いですが、パリならスーパーでも売っています。250グラムが日本円で200円ぐらいです。
向こうで高級バターというと、ボルディエというノルマンディーの手作りバターがあって、たまに僕も買うんですけど、これだと250グラムで300円ぐらいかな。ところが日本の楽天で見ると、3000円ぐらいの値段になっています。
本堂 乳製品は輸入関税が凄いですからね。
西村 牛耳っている人がいるわけです。あと、恵比寿にユーゴ・デノワイエという肉屋ができたのですが、ここはフランスにもともとあるんです。星がついているレストランに肉を卸しているんですけれど、僕らも行けば普通に買えます。値段も100グラム200円ぐらいで、そんなに高いわけじゃないんです。
編 日本円で200円ですか?
西村 2ユーロです。だからステーキで200グラム買ったとしても、500円で収まる。だから星付きのレストランで食べる肉と同じものが2人で1000円しなかったりするわけです。これは楽しく暮らせますよ。
編 松坂牛が500円で買えるようなものですか。
西村 あとフランスパンが美味しいです。パリで食べて理解しましたが、とても乾燥していて、美味しいフランスパンは乾燥していないと作れないようなんです。雨の日は膨らみが悪いんですね。乾燥した日に膨らんでいるのが美味しい。だから同じ材料を持ってきて日本で焼いても、やっぱり無理じゃないでしょうか。
編 1日経ったフランスパンを齧ると、破片が凶器のようになって口から血が出たという話を聞いたことがあります。
西村 それぐらい乾燥していますね。
編 フランス語の習得状況は、どうですか?
西村 日常会話は何とかなります。やはり住んでいるからですね。
編 どんなところにお住まいなんですか?
西村 パリの部屋は狭いので、1平米あたりの家賃は東京より高いんです。僕が住んでいるのはワンルーム的な部屋ですね。30㎡ぐらいでしょうか。
本堂 結婚しましたよね?
西村 しています。
本堂 奥さんと一緒にパリで暮らしているんですか?
西村 一緒です。
花田庚彦氏(以下、花田) じゃあ今回、奥さんと一緒に来日したんだ?
西村 そうです。ちょっとずれて、別々に入ったんですけどね。僕だけ用事があったので、先に来ました。まあ、来日なのか帰国なのか分からないですけれども(笑)
花田 そうだ帰国だ、来日ではないよね(笑)
本堂 フランス人になってしまった(笑)
編 日本には年に2、3回は帰られるんですか?
西村 一応は月1です。何だかんだやることがありまして。あと不在時の郵便を保管してくれるのが1か月ということもあります。
本堂 じゃあ、シャルル・ド・ゴール空港から飛んでくるんですね。
西村 そうです。11時間ぐらいです。
本堂 きつくないですか?
西村 僕は飛行機が好きなんです。
(第4回につづく)