バブル期のイトマン事件を巡る暗闘を描いた『住友銀行秘史』(講談社)の評判が高まる一方だ。硬派の「経済事件ノンフィクション」にもかかわらず、部数は13万部を突破。異例のベストセラーは、著者の國重惇史氏(71)にも関心が集まっている。
ところが、ご存じの方も少なくないだろうが、実は國重氏、なかなか波瀾万丈というか、お騒がせな経歴の持ち主なのだ。
スタートは典型的なエリートコースだ。東京大学経済学部を卒業し、68年に住友銀行(現・三井住友銀行)に入行。当時の銀行にとっては最重要ポジションの1つであるMOF(大蔵省)担当として名を馳せ、94年には48歳の若さで取締役に抜擢される。
イトマン事件に直面したのは90年。この頃にメモしていた住友上層部の動向を、今回の著書で暴露したことになる。
文中の登場人物は全て実名。一読した当事者たる住友OBらは凍りついたという。著者自身も、事件化を狙って怪文書を作成し、当局やマスコミに配布していた事実を明らかにしている。
詳しくは國重氏の著書を読んで頂くとして、興味深いのはその後の人生だ。
■―――――――――――――――――――― 【写真】リミックスポイント公式サイトより
(http://www.remixpoint.co.jp/)
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97年に住友キャピタル証券の副社長に就任するが、99年にDLJディレクトSFG証券の社長となる。
同社は楽天証券の前身。つまり頭取候補とも言われていた國重氏は楽天に転職したのだ。同社の三木谷浩史社長に三顧の礼で迎えられたと報じた社もあった。入社後は三木谷社長の片腕として金融部門などを統括。副社長まで上り詰める。
だが、好事魔多し──。
週刊誌『週刊新潮』(14年5月1日号・新潮社)が、國重氏が都内在住の専業主婦とダブル不倫の関係にあることを報道。結果、「一身上の都合」から楽天を退社することになってしまう。
そして15年6月、株式会社リミックスポイント(東京都目黒区東山)というベンチャー企業に請われ、國重氏は社長に就任する。
ところが、この会社、資金繰りの悪化などで不透明な増資が続くなど、悪い意味での注目を集めていたのだ。
その経緯は、ニュースサイト『ビジネスジャーナル』の記事『あの元楽天副社長、いわく付き企業社長として窮地&孤軍奮闘…反社勢力の詐欺を回避』(高橋篤史氏・ジャーナリスト)に詳しい。
(http://biz-journal.jp/2016/11/post_17196.html)
内情を知る関係者が苦笑する。
「なんのことはない、このベンチャーが危険な会社だということにようやく気付いて、とにもかくにも逃げ出したというのが、ことの真相ですよ」
中古車のオークションサイトとして事業を始めたリミックスはその後、競争激化で事業転換に追い込まれる。更に16年10月には資金繰りが悪化し、香港企業に大規模増資を引受けてもらうことを決めた。
だが上記の記事にもあるが、この増資、かなり不透明なのだ。「不正な資金確保の疑いがある」との噂がつきまとい、証券取引等監視委員会など関係当局が水面下で内偵調査に乗り出したほどだ。
そうした流れの中で、國重氏は16年末、「経営責任を明確化する必要がある」として社長職を辞任した。関係者が明かす。
「リミックスでは國重さん以外の役員は辞めていません。何のための経営責任なのか、これでは投資家に伝わりませんね。國重さんは自らの著作がベストセラーになって、注目される存在になった。高給で社長職を引き受けたものの、怪しげな増資が当局の目に留まり、怖くなって逃げ出した。これが彼の突然の辞任劇の真相ですよ」
「頭取候補」との声もあったほどだから、國重氏は有能な銀行マンとして業界では有名だった。一方で、女性関係が派手など、エリートらしからぬ脇の甘さも目につく。著作では年末年始、妻とは別の女性と海外旅行していた事実を明らかにしているほどだ。
「経営が危ないリミックスは、最初から國重氏を『信用補完』のつもりで社長に据えた。その魂胆に、國重氏は元銀行マンだというのに気づくのが遅すぎた」(同・関係者)
やはり銀行関係者からも、國重氏の甘さを指摘する声が強い。ところが皮肉なことに現在、リミックスポイントの株価は絶好調なのだ。仮想通貨の店舗決済サービスが好材料と受け止められているという。
とはいえ、所詮は〝株のプロ〟が注目する話だ。株に全く手を出したことがないか、〝健全〟な個人投資家なら、國重氏の判断を──遅きに失したとはいえ──支持するに違いない。
(無料記事・了)