臨済宗、曹洞宗に次ぐ禅宗の黄檗宗の寺院「安城寺」(松山市)の住職と檀家総代が、融資を返済せず背任・詐欺容疑で、大阪地検特捜部に逮捕・起訴された事件がスキャンダラスな様相を強めている。
2017年2月に詐欺罪などで起訴されたのは、安城寺の住職・片井徳久と、松山市の会社役員で演歌歌手としても活動していた宇都宮貞史の両被告。
最初の逮捕は16年12月。寺の建て替えを理由に1億5000万円を借りたが返済契約を守らず、融資元に損害を与えた、という背任容疑が〝入口〟となった。
その後、13年4月ごろに2人が宗教法人施設に関する架空の建て替え計画などを建設会社に持ちかけ、同社の社長から3億円を騙し取ったとする詐欺容疑で17年1月に再逮捕されていた。
このうち片井被告は「自分はPL教団トップの後継者」と称し、黄檗宗本山の施設まで担保にして投資ファンドまがいの資金集めをしていた疑いも浮上している。情報によれば、集めた資金総額は30億円超。検察が全容の解明を急いでいるが、巨額資金はどこに消えたのか、現在でも憶測が憶測を呼んでいる。
■―――――――――――――――――――― 【写真】安城寺公式サイトより
(http://anjoji.com/)
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この事件で驚かされるのは、1億5000万円を手中にした片井被告が、直ちに寺の土地建物の所有権を長男が住職を務める別の寺に寄付して移転登記し、宇都宮被告の会社に抵当権を登記して貸し手側の移転登記を妨害する「プロ並みの手口」(検察筋)を使っていることだ。
返済期限を過ぎた場合は土地建物で弁済する契約を結んでいたが、片井、宇都宮両被告のこれらの登記操作によって、貸し手側の移転登記はできなくなった。とても僧侶が知っている類のテクニックではない。どう考えても「事件師の手口」(同)である。
しかも捜査から、末寺の住職に過ぎない片井被告が一時期、本山である京都府宇治市の『萬福寺』の研修施設の土地建物も担保にしていたことまで判明。関係者は「京都の資産家から10億円を預かるための担保だった」と語るが、これとは別に、本山の伽藍本堂や敷地も売買契約書を結ばされ、実質、借金のカタに入っている――との情報もある。
こうして片井被告らが集めた資金は30億円超。同容疑者は投資企業や資産家に「PL教団の現在の教祖、御木貴日止氏は病弱で、水面下で跡目問題が起きている。次は自分が教祖」と語っていた。関係筋によれば、確かに片井被告は御木家に養子入りしていたが、次期教祖の話はにわかには信じ難い。だが、余裕資金を運用したい投資家たちはこれを信じていた。
共犯の自称檀家総代、宇都宮被告は飲食店を経営していたが、破綻状態。集めた資金の一部は同容疑者の借金返済に充てられた――と検察は睨んでいるようだ。
しかし、30億もの巨額資金の使途はそれだけでは説明できない。検察筋は「本山も事情を知らなければこんな巨額詐欺は不可能」と本山の関与も疑っているが、情報関係筋の間では、組筋や、PL周辺への流出を指摘する情報もある。
検察が未把握の〝闇〟が広がっている可能性は決して少なくない。この逮捕された住職も、法衣をまとった事件師と見る方が自然だろう。
(無料記事・了)