プロ野球B級ニュース事件簿2016⑭ファーム篇 | イエロージャーナル

 当り前だが、プロとアマの差はカネ、つまり生計を立てるか否かという問題に集約される。だからこそ本質的には、1軍と2軍の必死さに、変りはないはずだ。

 いや、生存競争という観点では、2軍の方が強烈で当然だ。ならば、選手を巡るドラマも、2軍の方が劇的だということにはならないだろうか。

「プロ野球B級ニュース事件簿2016」の第14回は「ファーム篇」だ。1軍を目指して必死──という選手だけではないところが、2軍の奥深さだろう。

①打撃投手は70歳 池田重喜(ロッテ) ②甲子園エースの豪華継投 松坂大輔(ソフトバンク) ③2軍で珍デビュー 高橋純平(ソフトバンク) ④東大相手に6回7失点炎上

桜井俊貴(巨人)

の4選手のエピソードをご紹介したい。 ■―――――――――――――――――――― 【著者】久保田龍雄 【写真】2014年12月、ソフトバンクホークス新入団記者会見での松坂大輔。福岡ソフトバンクホークス公式サイトより

(http://www.ustream.tv/recorded/56131041)

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■まさに古来稀なり 球界最高齢の打撃投手は70歳!

池田重喜(ロッテ)

 打撃投手が古希なのだ。

 5月1日に70歳の誕生日を迎えたロッテの池田重喜・寮長兼打撃投手は、31歳で現役を引退し、53歳のときに寮長になった。

 だが、2軍の練習で若手選手に投げつづけ、抜群のコントロールを披露。「その歳でこれだけ投げられるのなら」と、12年から2軍打撃投手との兼務も始まった。

 大洋(現・DeNA)時代の69年4月13日の阪神戦(甲子園)で、ルーキーの田淵幸一にプロ初安打、初打点となるプロ1号を打たれたが、6回1/3をこの1点だけに抑えた。

 V9巨人時代のONとも対決し、ロッテ時代の米キャンプでは、若き日のレジー・ジャクソンを4打数4三振に抑えたことも。そんな輝かしい戦績を持つ男が、背番号「110」の打撃投手としてバリバリ投げつづけた。奇跡と言えるだろう。

「体が動くのは、両親が強い体に産んでくれたお蔭。ここまでやらせていただいているマリーンズに感謝をしています」

と言う本人だが、日々続けている自己管理の徹底ぶりも見逃せない。

 投球動作は腰に負担がかかるため、腹筋は1日500回、ウォーキングも1万5000歩以上が日課。食事も「暴飲暴食せずに、腹八分目で済ませる」という。そのお陰で四十肩とも無縁に〝若々しい肉体〟を保ちつづけているのだ。

 70回目の誕生日となったこの日も、ロッテ浦和球場で青松慶侑、井上晴哉、肘井竜蔵の3人を相手に74球を投げた。

 昨夏の甲子園準優勝・仙台育英高出身のドラ1ルーキー・平沢大河も、新人合同自主トレで〝初対戦〟し、3本の柵越えを放って以来、お世話になっている一人。

「最初にお会いした時に、あの年で投げていると聞いて、『マジっすか?』と思いました。70歳といえば自分のおじいさんぐらいの年。コントロールがよく、テンポよく投げていただいている。本当に打ちやすい。1軍で活躍することが一番の恩返しになると思っています」(5月2日付・日刊スポーツ)

 その平沢も同11日のソフトバンク戦(ヤフオクドーム)で待望の1軍デビューをはたした。

「(1軍に上がった)選手たちが活躍したときの嬉しい気持ちが活力になる」という「裏方のレジェンド」は、シーズン後に球団から契約終了を告げられ、ついに退団。「この年までやれて、球団には感謝の言葉しかない」と笑顔でプロ野球人生に終止符を打った。

■2軍戦で実現 甲子園春夏連覇エース2人の豪華継投で7回をゼロ封

松坂大輔(ソフトバンク)
5月4日 オリックスvsソフトバンク(タマホームスタジアム筑後)

 甲子園で春夏連覇を達成したV腕が2人も在籍しているチームはどこか?

 高校野球ファンなら、即座に答えられるはずだ。

 答えはソフトバンク。98年に春夏連覇の横浜高のエース・松坂大輔と10年に春夏連覇の興南高のトルネード左腕・島袋洋奨が在籍しているのだ。

 松坂はメジャーから日本球界復帰、島袋は中大からドラフト5位入団と立場は違っても、15年に揃ってソフトバンクに入団した同期生である。

 しかし、同年に右肩手術を受けた松坂は、2軍で登板わずか1試合に終わり、島袋も終盤に1軍で2試合リリーフ登板しただけと、かつての活躍を知る者には寂しい1年目となった。

 16年も揃って2軍で開幕を迎え、4月27日の中日戦(ナゴヤ)でV腕2人の豪華継投が2年目にして初めて実現した。

 高校野球の長い歴史の中でも春夏連覇を達成したのは7校だけ。2軍戦とはいえ、春夏優勝投手の継投は史上初の快挙と言えるが、残念ながら、試合は1対4で敗れ、4回5安打3失点の先発・松坂は負け投手に。せっかくの〝お披露目〟を飾ることができなかった。

 だが、5月4日のオリックス戦(タマホームスタジアム筑後)では、この年2度目の豪華リレーが見事にハマる。

 先発・松坂は4回2死満塁のピンチにブランコを3球三振に仕留めるなど、4回を2安打無失点。1点リードで迎えた5回から松坂をリリーフした島袋も7回に1死三塁のピンチを招いたものの、3回を2安打無失点。2人で7回をゼロ封し、1対0で逃げ切り勝ち。高校野球ファンには嬉しい一日となったが、1軍への道はまだ険しかった。

 松坂はシーズン最終戦、10月2日の楽天戦(コボスタ宮城)に合わせて1軍登録され、8回裏、西武時代の06年10月7日のプレーオフ第1戦(ソフトバンク戦)以来10年ぶりの登板をはたしたが、制球が定まらず、1回を3安打2四死球5失点。島袋も1軍に上がることなく、2勝7敗1セーブ、防御率5.51でシーズンを終え、3年目の17年は2人揃って背水の陣となる。

 今年は2人とも1軍で結果を残し、交流戦の阪神戦で、12年の春夏連覇投手・藤浪晋太郎(大阪桐蔭高)との春夏連覇同士対決をぜひ実現させてほしいというのが、ファンの切なる願いだが……。

■ボーク球を本塁打 期待のドラ1ルーキーが2軍で珍デビュー!

高橋純平(ソフトバンク)
5月28日 広島vsソフトバンク(タマホームスタジアム筑後)

 ソフトバンクのドラフト1位ルーキー・高橋純平が5月28日のウエスタン、広島戦(タマホームスタジアム筑後)で今季初登板をはたした。

 開幕1軍を期待されたが、1月の新人合同自主トレ初日に左すねの張りを訴えてリタイア。リハビリの影響で大幅に出遅れ、開幕から2ヶ月を過ぎて、ようやく2軍デビューと相成ったしだい。実戦登板は15年9月のU-18ワールドカップ、キューバ戦以来、266日ぶりだった。

 2軍戦とはいえ、話題のルーキーの初登板をひと目見ようと、小雨の降るあいにくの天気のなか、スタンドは満員の3113人で埋め尽くされた。

 3回から摂津正をリリーフした高橋は、先頭の9番・中村亘を146キロで遊ゴロに打ち取る。だが、次打者・野間峻祥にスプリットを中前安打され、プロの洗礼。そして、2番・庄司隼人の打席で、B級ニュースファンにとっておきの珍ネタを提供する羽目になった。1ボールから庄司に対する2球目、静止時間の短いクイックモーションが梅木謙一球審に「ボーク」と宣告されたのだ。

 通常なら野間がテイク・ワンベースで1死二塁から試合再開となるところだが、庄司のバットが142キロの内角直球を鋭くとらえ、右越えに運んだことから、話がややこしくなった。

 打者が安打や四死球、失策などで一塁に達し、走者すべてが1つ以上進塁した場合は、ボークに関係なくインプレーになる。つまり、庄司のホームランも記録に残るというわけ。思わぬ形でプロ初被弾と2失点がついてしまった。

 高橋は「投げる途中からボークとわかって、(力を)抜いてしまいました。ルールは後から知りました」と不用意な1球を悔やんだが、気持ちを引きずることなく、次打者・ブライディを3球連続の145キロで空振り三振、4番・ルナを147キロで右飛と大物の片鱗を見せつけたのはさすがだった。

 4回も安打と2四球で2死満塁のピンチを招いたものの、プロ初安打を許した野間を二直に打ち取ってリベンジ。2回を被安打3、与四球2、奪三振2の失点2。「〝ボークラン〟さえなければ……」と1球の怖さを肌で思い知らされたデビュー戦でもあった。

 16年はウエスタンで7試合に登板。2勝1敗、防御率2.22の成績を残したが、1軍デビューは2年目に持ち越しとなった。

■真夏の珍事!? 巨人のドラ1右腕が東大相手に6回7失点炎上

桜井俊貴(巨人)
8月25日 巨人3軍vs東大(東大球場)

 東大野球部が強くなったのか?

 それとも巨人が不甲斐ないのか?

 真夏の珍事とも言うべき仰天ニュースが飛び込んできたのは8月25日だった。

 この日、巨人は交流試合で東大と対戦したが、乱打戦の末、12対8の辛勝というまさかの結果となった。

 東大といえば、東京六大学リーグ戦で37季連続最下位。16年春はプロ注目の最速150キロ左腕・宮台康平(3年)の快投もあり、3勝を挙げた。

 だが3軍とはいえ、プロが手こずるような相手ではないはず。巨人ファンならずとも「一体何があったんだ?」と首を捻るところだ。

 大苦戦の原因は、巨人先発のドラ1右腕・桜井俊貴の乱調だった。プロ初登板となった3月30日のDeNA戦(横浜)の試合後に右肘の張りを訴えて登録抹消されて以来、3ヶ月半にわたって3軍で調整し、7月16日のBC富山戦(富山市民)で実戦復帰をはたしたばかり。試合の勘はまだ戻っていないものの、学生相手なら〝プロの顔〟でそれなりに抑えてくれるものと思われた。

 ところが、そんな〝未来のエース〟に東大打線が牙をむいて襲いかかる。初回から4回まで2点、1点、3点、1点と毎回得点。5、6回こそ無失点に抑え、計9三振を奪ったものの、毎回の11安打、7失点は、信じられないような炎上ぶりだった。

 初回の自らの野選に味方の拙守や塁審に打球が当たって中前安打になる不運も重なったとはいえ、東大の各打者は桜井のストレートに対応し、的確にとらえていた。

「直球がイメージと違う。全体的に球が高い。それが打たれた原因だと思う」(桜井)

 この日、立岡宗一郎が「1番レフト」で出場するなど支配下選手5人を起用した巨人は、7対7の6回に2点を勝ち越し、やっとの思いで打ち勝ったが、東大はエース・宮台がコンディション不良で登板回避。しかも、巨人はDHを使っているのに、東大はリーグ戦同様DHなし。これでは勝っても後味が悪かっただろう。

 一方、巨人に大善戦して自信をつけた東大も、秋季リーグでは宮台が左肩の疲労感から1試合しか登板できず、1勝10敗。38季連続最下位に終わった。

 だが、東大初のドラ1の期待もかかる宮台が復調すれば、17年は最下位脱出どころか、4位以上も夢ではない。今年も交流戦が組まれたら、巨人は2年連続で新聞ネタを提供という事態だけは避けたいところ?

(無料記事・了)