日本において、ハロウィーンがバレンタインの市場規模を超えたのは昨年2016年のことだという。
菓子業界にとっては〝コペルニクス的転回〟かもしれないが、さる女性政治家は、それでもチョコレートを重んじているようだ。政治担当記者が苦笑して言う。
「16年9月に民進党代表に就任した蓮舫さんですよ。代表選に当選すると民進党の関係者が私たちマスコミに、蓮舫さんの写真がプリントされたキットカットを配ったんです」
ちなみにキットカットは箱入りではなく、1個1個に「バラ売り」されたものが配られたという。
「一応、賄賂じゃないかと冗談で話したんですけどね。まあ、真面目な話をすれば、数十円の単位ですし、政治担当記者といっても東京都の有権者じゃない人間も多いですから問題はないんでしょう。とはいえ、不問に付するというより、民進党が大変な時に、何を浮かれているんだと呆れる気持ちが強かったですよ」
記者氏の直観は、確かに正しかった。二重国籍問題で味噌を付けたことが「過去」に思えるほど、今の蓮舫代表には様々な「苦難」が襲い掛かっている。文字通り「四面楚歌」という状況なのだ。 ■―――――――――――――――――――― 【写真】蓮舫代表公式サイトより
(https://renho.jp/)
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まずは蓮舫氏ご自身の「去就」が問題になっている。首相を目指すべき党代表として、衆院選挙区への鞍替えが取り沙汰されているのだが、なかなか前に進んでいないのだという。
確認しておくと、首相は「衆院議員に限る」という規定は存在しない。だが、衆院の解散権を持つことなどから、「衆院議員でないと問題が多い」という見解が基本だとされる。
産経、日経、読売、時事などは「蓮舫代表、次期衆院選で東京比例1位を検討」と16年10月に報じた。だが「お家騒動」が得意技の民進党だけあり、一部議員からは「党代表が小選挙区制で戦わないのは反則技そのもの。真面目に当選した議員に示しが付かず、混乱の要因になる」と反対論が噴出している。
とはいえ、東京都内の小選挙区も12区(北区、足立区の一部)を除き、現職と公認内定者で埋まっている。前回落選した海江田万里元代表の1区(千代田区、港区、新宿区)から出馬し、海江田氏を比例で優遇する案も検討されているともいう。だが調整は一筋縄ではいかないようだ。
そんな中、蓮舫代表サイドは「ウルトラC」を画策していたようだ。関係者が明かす。
「蓮舫代表は、小池百合子・東京都知事の地元だった東京10区(※編集部註:豊島区と練馬区の一部)から出馬すると狙いを定め、水面下で急接近を図っていたんです」
だが、10区は小池都知事を真っ先に支持した若狭勝・衆院議員が16年10月に補選で当選を果たしている。本当に蓮舫代表が出馬するとなれば「禅譲」が必須となるが、そんなことが可能なのだろうか。
「昨年暮れから小池知事と接触を重ねる中、禅譲の密約が成立した、という情報が漏れ聞こえたこともありました。条件として検討されたのが、都議選で小池知事の本拠地である豊島選挙区、定数3での〝取引〟です」
豊島選挙区の現状は、自民、公明、共産という顔ぶれだが、小池知事サイドは『小池新党』で2議席、残り1議席は公明という青写真を描いているという。要するに豊島選挙区から自民都議を一掃したいわけだ。
そこで蓮舫=民進党サイドとしては、民進党候補者の出馬を取り下げ、小池新党の2議席獲得を援護射撃することで小池知事と話を付けるつもりだったようだ。更に関係者は「小池知事と若狭衆院議員との関係は決して良好ではないんです」と明かす。
「知事は、都知事選で応援してくれた『7人の侍』の都議たちが自民党から除名処分を受けたのに、自民党に居座り続ける若狭氏に愛想を尽かしています」
産経新聞は16年12月、『民進党の蓮舫代表が小池百合子東京都知事に秋波?「小池氏と協力探る」 都議選での連携を模索』
(http://www.sankei.com/politics/news/161211/plt1612110014-n1.html)
との記事を掲載した。11日に蓮舫代表が「小池氏と協力できることがないか探ってみたい」と発言したことを受けてのものだ。
明けて17年の1月4日にも記者会見で、「(民進は)改革の旗を掲げる仲間を公認している。小池氏とは、見ている方向は同じだ」と更に小池氏へ秋波を送った。
だが2月3日、小池知事は定例会見で「明確に申し上げると(民進すべてとの連携は)全く考えていない」と発言。蓮舫代表は9日の記者会見で「私から(小池氏との)連携を模索していると、これまで明言をしたことはないと思っている」と苦しい釈明に追い込まれた。
一体、何があったのか。その謎に挑んだのが『【水内茂幸の野党ウオッチ】「小池台風」が「蓮舫丸」を吹き飛ばす日 「民進、驚くほど弱い」と命綱断たれ』の記事だ。
(http://www.sankei.com/premium/news/170213/prm1702130006-n1.html)
記事の根幹は、小池知事に対する高い支持率と、民進党へのアレルギーが根強いことが、小池知事サイドの世論調査で明らかになったという点だ。民進党と調整するより、小池新党で自前の候補者を擁立した方が勝率は高いという。
更に、鉄鋼、造船重機、非鉄、建設などの産業別労組「基幹労連」の組合員を対象にした16年のアンケートで、自民党への支持率が初めて旧民主党を上回っていたことも明らかになった。完璧な「四面楚歌」の状況が続いている。
苦しい党勢を、蓮舫代表が回復させる可能性は存在するのか。政治アナリストの伊藤惇夫氏は「今のままでは厳しいでしょう」と指摘する。
「蓮舫さんという政治家は、舞台の書割のようなんです。綺麗な絵だけど、真実味に乏しい。人の心を動かすことができない。表面的な人気はありますから、二重国籍問題で露呈した『危機管理能力が欠如している』という問題点が払拭できていないにもかかわらず、街頭に立つと人は相当に集まるんです。だけど支持率回復には結びつかない。かといって、今の民進党には看板となる政治家は他にいない。変えようにも変えられない。悪循環ですね」
民進党の人材難が根本の原因ではある。「小泉進次郎カード」を温存できている自民党との決定的な違いだ。伊藤氏は自民党事務局の勤務を経て、98年には民主党の事務局長を務めた。「古巣」のふがいなさに、苦言を呈さざるを得ない。
「歯がゆい思いをしています。今の自民一党だけが強く、野党が多弱という政治構造が問題であることは言うまでもありません。野党第一党の責務は民進党が果たさなければならないのに、内紛に明け暮れている。党としての一体感が欠如しています」
蓮舫代表の衆院鞍替え問題も、民進党の課題が集約されているという。
「舞台の書割で知名度は高く、一定の人気があるんですから、どこの小選挙区からでも出馬すればいいんですよ。代表として気概を見せるべきタイミングですが、水面下での調整に明け暮れている。結局はリーダーシップに欠けているわけです」
本当のウルトラCがあるとすれば、「思い切った若返り」だと伊藤氏は指摘する。
「民進党にも、まだ無名だとはいえ、政治家としての実力を蓄えつつある若手議員がいるんです。思い切って彼らに党を任せる。有権者が民進党を嫌うのは、民主党政権のアレルギーが根強いからです。だとすれば、政権交代に関係した議員は退場するのが、最も効果的な刷新策です。それ以外の方法はないと思います」
蓮舫代表がキットカットを配ったのは、受験生よろしく「きっと勝つ」のダジャレを意識してのことだろう。とはいえ、少なくとも現時点では「きっと負ける」というシナリオ以外は浮かばないのが現状だ。