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目次

  • あらすじ
  • ネタバレ
  • 感想
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あらすじ

家宣が亡くなり、忘れ形見の千代姫が4歳で名を家継と改め、七代将軍となります。御台所の國煕は落飾して天英院、側室の左京は月光院となり、家宣の側用人であった間部詮房とともに大奥を守ることとなるのです。

江島は大奥総取締として、なにくれとなく心を砕き、実直に使えていましたが、その真面目さが堅苦しいともいわれるようになってしまいます。

その頃、まだ幼い家継の将軍後継を誰にするのか、ということで幕閣は揺れていました。家継の資質は未知数です。まだ幼く、これから先子供を産むかどうかもわかりません。

しかし、家宣の治世で一応の安定をみた幕政ではありましたが、油断はできず。当時優れた才覚を持つ紀州の徳川吉宗に、ひとかにその白羽の矢が立っていました。ここでやっと、お話がこの物語の一巻の冒頭へと立ち返るのです。

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ネタバレ

幼い家継を見守る月光院(左京)は、家宣のことを敬愛していましたが。彼は自分を地獄のような日々から見出し、引き揚げてくれた間部詮房のことを想っていました。

しかし、間部はこれもまた自らを低い身分から取り立ててくれた家宣のこと、そしてその子である家継のことだけが大切で、月光院のことを拒むのです。

その時代、庶民の暮らしが安定してきたこともあって、江戸市中の娯楽が様々な進化を続けていました。芝居(歌舞伎)もその一つです。男女逆転の世界ですから、ここで役者をやっているのは全て女たちでした。

市川團十郎という名前が出てきますが、その彼女が先輩と慕っているのが生島新五郎です。彼女らは、芸とともに、色も売る、それが現実でした。

大奥の者たちも、そんな時代の流れに押されるように、寺社への参詣を言い訳にした外出があたりまえになっていくのです。風紀が乱れていくなかで、しかし月光院と江島の周辺はそうした風潮とは無縁だったのですが。

江島はことにストイックにそういった事柄からは離れて生きていました。彼は自身の容姿に大きなコンプレックスを抱えていました。ごつくて毛深くて不細工…それがもとで、彼は文武に秀で、優れた心ばえの若者でありながら、どの縁談も断られ、そうした喜びを諦めていたのです。

そんな彼をみて、月光院はねぎらいの意味も込めて芝居見物を勧めました。最高位にいる彼が芝居を見れば、お付きの者たちも楽しめて、不満が解消される、というのです。初めて見た生島新五郎の芝居のすばらしさ、そして美しさに、江島は心を揺さぶられました。

その頃、天英院の部屋の上臈・藤波(彼は一巻で大奥総取締として登場しています)は度々そうした外出の門限に送れ、賂を渡すことで罰を免れておりましたが、それがそのころの規範とされており、綱紀は緩むばかりだったのです。

江島の、生島への惚れこみようは周囲の目にも明らかだったため、彼を気遣う部屋子たちが月光院に、生島との宴席を設けては、と進言しました。実直に務めてきた江島へのねぎらいの意味も込めて、月光院は快諾し、そのすぐに段取りがはかられたのです。

江島は、目の前に現れた生島に気後れし、手を触れることも出来ないままに自分の心中を吐露します。しかし、生島はそんな江島の心根を見抜き『こんな良い男が大奥にいるなんて、勿体ない!』と言うのです。

目の前の生島に触れられる時がきたというのに、江島は再会の言葉を交わし、彼女のもとを去ります。『今日はあんまり良いことがありすぎて、これ以上は怖ぇや…罰が当たる』…と。

刻限を守り帰城した江島は、その夜生島の面影を思い出し、その言葉や、優しさに布団の中でむせび泣きました。
それが、彼の人生で最も幸福なひと時だったのです。

ほどなくして、江島をはじめとしてその配下の者たち全てが捕らえられ、大奥から追放、そして江島と生島は密通したと告発されてしまうのです。

藤波らの行状に比べたらはるかに慎ましく、そして規則を破ったこともなかった江島らの行いでしたが、それがやり玉に挙がったのは、将軍家継を取り巻く勢力を追い落とそうとする者たちの陰謀でした。家継の父親月光院と、側用人の間部詮房が密通しているというスキャンダルを引き出そうとするために、生贄にされてしまったのです。

どんなに拷問をされても江島は一言も口を割りませんでした。月光院は死罪を命じられた江島の命乞いに奔走し、天英院に助けを乞います。その結果として、江島は信州へ、生島は三宅島に流罪となりました。

天英院は月光院と間部らの失脚から大奥の最高位に上り詰めましたが、その背後にいたのは吉宗の家臣である加納久通でした。彼女は、吉宗を将軍の後継とするためにあらゆる策を講じていたのです。江島生島事件は、その代理戦争として、数多くのものを巻き込み、その決着をみたのです。

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感想

家光の時代からそうした政争をみてきた御祐筆の村瀬が、吉宗にその文書である没日録を見せて、力尽きたようにこと切れます。吉宗は、彼がその勤めを終えたのだと理解し、これまでの徳川家の歴史を振り返り、己に課された責務の重さを噛み締めるのでした。

村瀬の『老い』の描写は、桂昌院のそれと同様にすさまじいものがありました。彼の人生が、そのまま家光以来の徳川幕府の歴史だったのです。

その年月の重みは年表ではわからないものです。彼の姿を見て、『これほどの時が流れたのか』と読み手は直感的に理解します。そして、物語は一巻へと続いていくのです。

江島の存在も、衝撃でした。ほんの一瞬、淡い幸せを得た彼が、その想いを抱えながらその先の一生を孤独に生きていかなければならなかった、その理不尽と無情は例えようもありません。

せめてもの救いは、そんな彼を身近にみている者たちが、事件の本質を理解し、彼の人となりを受け止めてくれていた、ということでしょうか。

そして、家継の死後の吉宗の治世へと物語は戻ります。教科書でもその功績が知られている吉宗の改革断行は小気味の良いほどでした。三人の姫にも恵まれ、跡取りもできたということで、その治世は安泰と思われていましたが。

ただ一つ、そして最大の悩みがその世継ぎでした。長女の福姫。後の将軍家重は、重い障碍を抱えていたのです。

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