米国で最も注目されている企業、をご存じだろうか。NVIDIA Corporation(エヌビディアコーポレーション)が、それにあたる。カリフォルニア州サンタクララにある半導体メーカーだ。
創立は1993年4月、従業員は9,000人と中堅レベル。だが、昨今話題の人工知能(AI)の心臓部・演算処理装置(プロセッサ・ユニット)の設計を主業務にしており、大きな注目を集めている。
そして、この会社を、孫正義氏が率いるソフトバンクが狙っているのだ。
■―――――――――――――――――――― 【写真】NVIDIA公式サイト『ディープラーニングとAI』より
(http://www.nvidia.co.jp/object/deep-learning-jp.html)
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NVIDIAの創業者はジェン・スン・ファン(黄仁勲)氏。台湾・台北市で1963年に生まれ、アメリカへ移民。オレゴン州立大学、スタンフォード大学などを経て、NVIDIAを起業。まさに立志伝中の人と言っていいだろう。
3次元画像を高速処理するプロセッサ・ユニット(GPU)の開発が原点。当初はパソコン用が主体であり、インテルやAMDの後塵を排していた。しかしAI技術の進展に伴い、同社のGPUが注目されるようになった。
最近のAIを支える技術はビッグデータと深層学習=ディープラーニングだ。大量のデータを高速で処理するとともに、分析したデータをさらに深く掘り下げ精度を高める。その結果、囲碁や将棋でプロと対等に戦えるようになった。
しかしそのためには高速処理が可能な高性能コンピュータが不可欠であることは言うまでもない。複数台のネットワーク接続で高速処理は実現できるが、それでもコンピュータの演算処理能力は高いほうがよい。
さらに最近、画像や音声認識をAIで実行する分野も発展してきた。それら環境の変化もありNVIDIAのGPUへの関心が高まった。
NVIDIAのGPUは3次元の画像処理が中心だ。ということは、高速処理が得意なのである。AIといえばIBMの「ワトソン」やグーグルの「アルファ碁」が有名だが、どんなに優秀なソフトウェアがあってもそれを高速に処理する高性能コンピュータとその心臓部プロセッサ・ユニットがなければ話にならない。
そしてNVIDIAには高性能コンピュータ(提供チップセット=Tesla)からゲーム(同GeForce)、モバイル(同Tegra)、果てはドローン(同Jetson)や自動車(同PRIVE PX)まで対応可能な製品がある。
日本では工場用ロボット製造のファナックが提携しているが、世界ではグーグル、フェイスブック、マイクロソフト、中国・百度が採用するなど、その高速処理能力をAI分野に生かそうと各社競っている。
注目度が高まったここ一年、上場している米ナスダック市場でも株価は3倍以上の100ドルを超え、時価総額は500億ドル(約5兆円)に達した。まさに昇り竜の勢いだ。
そのAIの心臓部を担う〝昇り竜〟にソフトバンクが目をつけた。
すでに2,000億円を用意して秘かに市場で買いつけを始めている。さらに追加の資金が必要な場合は、サウジアラビア政府と提携して発表した総額10兆円の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を活用する。そのうえで資本提携または買収を狙う。
ソフトバンクは2016年、英国の半導体設計大手のARMを3兆3,000億円で買収した。ARMはスマートフォン搭載のプロセッサを展開しており、モバイル市場では85%という圧倒的シェアを誇る。
このモバイルの心臓部を握るARMとAIの心臓部を司るNVIDIAを手中にすることで、未来の覇者になろうという青写真だ。NVIDIAは、今後発展が見込めるIoT──モノのインターネット分野──のプロセッサ・ユニットも有し、単なるAIチップメーカーではない。ソフトバンクにとって垂涎の的なのだ。
この一年でNVIDIAの時価総額は大きく跳ね上がった。ARM買収より大きい買い物になることは必至である。ソフトバンクの次の一手に目が離せない。
(無料記事・了)