この厄介な構図を、品行方正な新聞記事から読み解くのは難しいだろう。
1月29日に告示された千代田区長選。改革派の小池百合子知事対、守旧派の内田茂の代理戦争と前振りは喧しい。
だが、その前にまず、品行方正な新聞記事を見習ってみよう。公選法に則った、教科書通りの報道を行っておく。
任期満了に伴う千代田区長選に立候補したのは、以下の3人だ。
現職の石川雅己氏(75)、新人で人材開発会社元社員の五十嵐朝青氏(41)、新人で自民党が推薦する外資系証券会社社員の与謝野信氏(41)──という顔ぶれになる。
それぞれの主張・公約を、3候補者のサイトから紹介する。
石川氏は現職らしく、「区政16年の施策」と実積を強調。書かれた7項目のうち「次世を担う子供たちを育成する「子育て・教育施策」」がトップだった。
五十嵐氏は「ぼくたちの千代田。2025ビジョン」と名付けた政策集の中で、1番の番号を付けたのは「劇場型から賛成型の区政へ!」だった。
与謝野氏は「基本政策」として最初に「日本一、住民が安心安全を感じられるまち 高齢者にやさしい安心して住み続けられるまち」を掲げた。
これで3候補を均等に紹介したので、本題に進む。
千代田区長選で真に重要なのは石川氏の選対本部に、1人のキーパーソンが参加していることだ。その名を鈴木重雄氏という。 ■―――――――――――――――――――― 【写真】千代田区公式サイト「ようこそ千代田区へ」より
(https://www.city.chiyoda.lg.jp/koho/kuse/gaiyo/yokoso/index.html)
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例えば産経新聞は2012年12月『【始動 猪瀬都政】「国に太いパイプ」特別秘書に鈴木氏』の記事を掲載した。一部を引用させて頂く。
<都は18日、猪瀬直樹知事の意向を受け、知事の日程管理や政策立案への助言などを行う政務担当特別秘書に、都知事選で選対事務局長を務めた鈴木重雄氏(56)を任命した。
鈴木氏は昭和58年から一時、石原慎太郎氏の事務所に所属していた。
就任会見で猪瀬知事は任命理由について、「会社に長く勤め、実際にマネジメントをしていて、大阪維新の立ち上げにも協力。国に対して太いパイプを持っている」と話した。石原氏の影響を受けるのではないかとの質問には、「石原さんの秘書をやっていたのは30年前。僕がすべて決めていくので心配なく」と答えた>
都政担当記者が解説する。
「鈴木さんは、住専問題で取りざたされた富士住建に勤務していました。その後、当時は衆院議員だった石原慎太郎さんの〝パーティー秘書〟となります。つまり集金担当ですね。その後、石原さんが都知事になって、それから猪瀬直樹さんが後継となり、鈴木さんが目付役として猪瀬さんの特別秘書になりました。差配したのは石原知事の特別秘書だった兵藤茂さんです。猪瀬さんは、産経新聞の記者で、都政記者会の〝ドン〟とも呼ばれた石元悠生さんも特別秘書に就けました。鈴木さんと石元さんに期待する役割は、当然ながら似ていたはずです」
都政記者氏は「似ていた」と綺麗に表現するが、要するに石元、鈴木組には「地獄耳」が期待されていたというわけだ。
石元氏は新聞記者だから〝本業〟だが、鈴木氏にも同じ役割だった。そのことから氏の〝キャラクター〟が見えてくる。
現在の猪瀬氏は改革派の旗を掲げ、小池塾の講師となるなど、小池都知事との密接な関係をアピールしている。だが徳洲会事件を忘れていいはずもない。猪瀬氏は例の5000万円を徳洲会に返却したが、その担当が特別秘書の鈴木氏だったのだ。
鈴木氏は上記のように石原陣営に属している。石原慎太郎氏のためにカネを集め、猪瀬都知事の秘書を経ると、奇妙なことに小池百合子知事の〝同士〟として「クリーンな改革派」というレッテルを与えられるらしい。
厭味はこのぐらいにして、改めて構図を確認しておこう。
現職区長である石川氏の陣営は鈴木氏を通して石原=猪瀬という元知事の〝系譜〟を引き継いでいる。これは紛れもない事実だ。
そして現職の小池都知事が石原慎太郎にケンカを売っているのも事実だ。
ところが小池知事は「石原氏の臭いが、いまだに強烈」(関係者)だという石川陣営を必死に応援している。選挙に怪談は付き物だが、こんな奇っ怪な構図は珍しい。都政に詳しいジャーナリストが縺れた糸を解きほぐす。
「旧・富士住建の関係者も期待していますよ。鈴木氏が石川氏に食い込むほど、都内の再開発案件に関わる可能性が高まるからです。かつて、猪瀬直樹氏が都知事に当選した時、花束を持って走り回っていたのは、さる広告コンサルタントの副社長でした。社長は神奈川新聞OBですが、狙いは東京オリンピックのPR活動だったことは言うまでもありません」
では「反石川派」たる自民党サイドこそ正義の味方かといえば、もちろんそんなことはない。というより、今回の千代田区長選では自民党らしからぬお粗末さが目立つ。
「選挙前から、破綻したアーバンコーポレーションによる、紀尾井町の再開発計画をめぐる石川区長の疑惑追及をマスコミに売り込もうと必死だったようです」(関係者)
ちなみに、この件に関しては、弊誌は既に記事化している。
『【連載】『哀しき総会屋・小池隆一』第12回「麹町五丁目計画の暗部」』
(http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000370/#more-3075)
だからこそ弊誌は断言するが、このネタを一般紙やテレビがストレートニュースとして報じられるわけがない。いわゆる「記者クラブ加盟社」は警察や検察が事件化してからスタートするのが基本だからだ。
結局のところ、石原慎太郎も猪瀬直樹も、内田茂も小池百合子も、基本的には自民党と、その周辺で生きてきたのだ。自民党、特に「保守本流」からの距離は、それぞれによって異なるが、同質性は高い。
そんな政治家が、敵味方に分かれて戦うわけだ。構図が複雑化するのは当然だと言える。だが「同じ穴の狢」によるバトルであることは間違いなく、要するに内ゲバなのだ。
かつての同士が刃を交える。文字面だけを見れば悲劇性も感じるが、今回は単なる喜劇だろう。被害者が存在するとすれば、こんな茶番に付き合わされる千代田区民に違いない。
(無料記事・了)