2016年12月11日、毎日新聞に『公文書管理:甘い点検 国交・文科省、不備報告せず』との記事が掲載されたのをご存じだろうか。なかなか興味深い記事なのだが、まずは以下に内容を要約させて頂く。
①法令で義務付けられた国の公文書管理状況の自己点検で、国土交通省と文部科学省は管理不備があったにもかかわらず、「不備ゼロ」としていたことが、毎日新聞の取材で分かった。
②一方、正確な自己点検を行ったのは防衛省、法務省、厚生労働省など。いずれも数万から数千件の不備を見つけて、改善を行っている。
③ミスの内容は、▼ファイルの分類ミス▼ファイルに無関係な文書の混入▼管理簿への誤記載──など。
④点検結果のばらつきに対して、国は「基本的には各省庁が監査することになっている」と毎日新聞に回答した。
⑤専門家は「ゼロはありえない。内部チェックが働いていない証拠。報告先である内閣府が調査し、指導を行うべき」と指摘した。 ■―――――――――――――――――――― 【著者】下赤坂三郎 【写真】【写真】内閣府「行政文書の管理」中の「文書管理者の役割」
(http://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/about/shikumi/g_bun/tebiki3.pdf)
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いかにも一般紙らしい、立派な報道であることは論をまたない。だが、皆さんは記事の要約に目を通されながら、公文書の保管場所をどのように思い描かれただろうか?
例えば各省庁の地下には巨大な保管スペースが用意されており、そこには膨大な量のファイルが並べられている、といったイメージを浮かべられただろうか?
実は公文書は役所には1枚も保管されていない。住宅地などに位置する建物に、適当に放り込まれているのだ。
私は以前、経済産業省の記者クラブに詰めていたことがある。そしてある日、経産省の総務担当のノンキャリ職員が、押収物のような段ボールの山を抱え、トラックに載せて出ていくところを目撃した。「あれは何だ?」と原付で尾行したのが原点だったが、他にも役所の保有資産を洗った際にも、様々な現状に触れることができたのだ。
例えばGoogle マップに「東京都文京区白山2丁目31−4」と入力して頂きたい。地図を拡大すれば建物に「文部科学省資料保管所」と書いてあるのが分かるはずだ。もちろんストリートビューを見ることもできる。ヤクザの事務所ほど悪趣味ではないが、窓が目張りされているなど、かなり不審な建物だということが一目瞭然だ。
「第2モリマツビル」と記載されている「東京都新宿区箪笥町5」の建物も興味深い。3階建の小さなビルなのだが、窓だけでなくシャッターもぴったりと閉ざされている様子は、暴力団というよりは、過激派の公然本拠地を思い起こさせる。
要するに、これらは一棟丸ごとが「書庫」なのだ。たまに役人が段ボール箱を搬入するぐらいで、後は人の出入りなど全くない。私も入ったことがあるが、中は基本的には民家の間取りと変わらず、各部屋に段ボールが〝野積み〟されている。
要するに相当に杜撰な管理状態なのだ。日本の省庁は公文書の管理に対する意識が非常に低いことが、こうしたことからも浮き彫りになる。役人の電子メールさえも、後世の評価に資するために公文書として細大漏らさずに収集している米国の公文書館との扱いと意識の隔たりは大きい。
この他にも、各省庁が独自に所有する「共用会議所」という建物に段ボールが置かれている場合もある。もっとも、「会議所」は、公文書の保管などとは比べ物にならないほど、国家公務員にとって重要な任務の舞台となっている。キャリア官僚らは、人目につきにくい会議所にコンパニオンを呼び、禁止されているはずの「官官接待」に精を出すのだが、それはまた別の機会に詳報させて頂こう。