プロ野球B級ニュース2016㉑アクシデント | イエロージャーナル

 プロ野球選手の「長いトンネル」と聞いて、思わず自分の人生と重ね合わせてしまう人も少なくないだろう。

 今年もプロ野球は開幕した。こうなると、選手と自分を同一視する余裕など失ってしまうのがファンというもの。

 ひいきのチームだけでなく、応援する選手が「長いトンネル」に入ってしまえば、心配したり、怒ったり、神を呪ったり、テレビの前で悪態をついたり……と、ありとあらゆる狂態を演じるのがファンだ。

 連載第21回は「長いトンネル」に捕まってしまった4選手のエピソードをお届けする。今年もきっと、同じような罠に落ちる選手が出現するはずだが、その「復習」をみんなで済ませておこうではないか。

①日本一MVP投手が1112日ぶり本拠地勝利  美馬学(楽天) ②71打席ぶり弾も15連勝でストップ   中田翔(日本ハム) ③高卒新人ワーストのデビュー6連敗寸前から奇跡が  小笠原慎之介(中日) ④シーズン2勝目は遠かった 

 東明大貴(オリックス)

 今回は以上、4選手のエピソードをご紹介したい。また、そのうち、美馬学選手の部分は全文、無料記事としてお届けする。

■―――――――――――――――――――― 【著者】久保田龍雄 【購読記事の文字数】約4900字 【写真】小笠原慎之介選手Instagramより

(https://www.instagram.com/dshinnosuke11/)

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■「長いトンネルでした」 日本一MVP投手が1112日ぶり本拠地勝利!

美馬学(楽天)
5月4日 ロッテvs楽天(コボスタ宮城)

「いやあ、長かった。すみません。お待たせしました」

 2013年4月18日のソフトバンク戦で勝ち投手になって以来、公式戦では本拠地13連敗、25戦連続無勝利と長いトンネルが続いていた楽天・美馬学。

 しかし遂に、16年5月、1112日ぶりに本拠地・コボスタ宮城で白星を挙げた。

 この日は、制球が定まらず、初回に4番・デスパイネにいきなり右中間適時二塁打を浴びた。その後も毎回走者を許す苦しい投球。一歩間違えば、勝利の女神がそっぽを向きかねない展開だった。

 だが、5回に打球が右すねを直撃するアクシデントに見舞われた際に、「ここで降りたら勝てない。エンジンを替えました」と気力で投げつづけたことが、結果的に吉と出た。

 その裏、味方打線が奮起し、銀次、ウィーラーの連続本塁打を含む5連続長短打で4点を挙げて逆転してくれたのだ。

 6回を6安打2失点の粘投でマウンドを降りると、7回からは福山博之、ミコライオ、松井裕樹の継投で5対3の逃げ切り勝ち。降板後は「ベンチで祈りながら見ていた」という美馬は「ついに勝つことができました。これからも勝っていけるように頑張ります」と目を輝かせた。

 日本一を決めた13年の巨人との日本シリーズ第7戦で勝利投手になってMVPに輝くなど、ポストシーズンでは勝ち星を挙げているのに、なぜかシーズンでは本拠地で勝てなかった。

 この間、14年4月29日のロッテ戦では、打球を股間に受けて降板するアクシデント。15年4月8日のソフトバンク戦では、9回を5安打無失点に抑えたのに、味方打線の援護がなく、0対0で延長戦突入。降板直後の延長10回にチームがサヨナラ勝ちという間の悪さに泣いたこともあり、まさに鬼門だった。

 周囲からジンクスを指摘されると、さらに苦手意識が膨らむという悪循環。「ビジターでは勝っているので」とゲンを担いで、4月20日のオリックス戦から準備の時間をビジター時同様、1時間程度遅らせるなどの工夫もした。そんな涙ぐましい努力がようやく報われた。

「ホームで勝つといいっすね。次からは意識しないで投げられる」の言葉どおり、同11日の西武戦でも7回を5安打2失点の好投で本拠地連勝。16年は9勝中6勝までがコボスタでの勝利だった。

 そして17年は初の開幕投手として3月31日、対オリックス戦に先発。開幕本命の岸孝之がインフルエンザに罹患し、急遽大役が回ってきた。6回3失点ながら粘りのピッチングに勝利の女神は微笑み、終わってみれば6対4でチームは勝利となった。

■主砲が長いトンネル抜けたら終点!? 71打席ぶり弾も15連勝でストップ

中田翔(日本ハム)
7月12日 日本ハムvsオリックス(京セラドーム大阪)

 16年6月19日の中日戦(ナゴヤドーム)以来15連勝と、日本ハムは巨大な波に乗っていた。しかしながら、4番・中田翔だけは打率2割4分台と不振にあえぎ、一人蚊帳の外だったことを覚えておられるだろうか。

(ここまで表示)
 チームが5連勝を記録した同27日の西武戦(札幌ドーム)では、2点を追う7回2死一、二塁のチャンスに代打・矢野謙次を送られる屈辱。直近10試合で38打数4安打15三振とあっては、「オレが監督やっている間は、4番は翔」と明言していた栗山英樹監督にとっても、身を切られるように辛い決断だった。

 そんな中田が7月12日のオリックス戦(京セラドーム大阪)で71打席ぶりの一発となる通算150号のメモリアールアーチを放った。

 1点を追う5回2死一塁、フルカウントから西勇輝の145キロシュートを右中間スタンドへ。6月15日のDeNA戦(横浜以来)18試合ぶりの本塁打。ゆっくりとダイヤモンドを一周した中田は、ベンチのナインにハイタッチで迎えられると、「久しぶりに振り抜けた」と安堵の表情を見せた。

 待望の主砲の2ランで3対2と逆転。これでプロ野球史上51年ぶりとなる16連勝もほぼ決まりと思いきや、なんとも皮肉なことに、主砲が長いトンネルから抜け出た日が連勝街道の終点となった。

 その裏、若月健矢の左越え二塁打を足場に西野真弘の中前タイムリーで同点に追いつかれると、7回にも若月の2打席連続二塁打の後、安達了一に中前タイムリーを許し、3対4と逆転された。

 9回に2死一、三塁と最後の粘りを見せたものの、3番・大谷翔平が投ゴロに倒れ、万事休す。最下位のオリックスに連勝を止められるというまさかの幕切れとなった。

 ちなみにこれまで15連勝以上を記録した9チームのうち、最下位チームに連勝を止められたのは、60年に18連勝した大毎が近鉄に敗れて以来、史上2度目の珍事である。

 試合後、中田は「自分が1本打った、打たないはどうでもいい。ホームランの次の打席でも、しっかりモノにできていれば勝てた試合。余計に悔しい」と同点の7回2死二、三塁で三ゴロに倒れたことで自らを責めた。

そんな悔しい思いを翌13日のオリックス戦(同)にぶつけ、0対2とリードされた8回2死満塁で起死回生の走者一掃逆転二塁打。自らのバットで連敗を止め、チームを再び上昇気流に乗せた。

■高卒新人ワーストのデビュー6連敗寸前から奇跡が!

小笠原慎之介(中日)
9月4日 中日vs巨人(東京ドーム)

 2015年、夏の甲子園で152キロをマーク。東海大相模高校の優勝投手になった中日のドラ1左腕・小笠原慎之介にとって、プロ1年目は苦闘のシーズンとなった。

 16年5月31日のソフトバンク戦(ヤフオクドーム)でプロ初登板初先発デビュー。5回を1安打1失点に抑えたが、8回2死から救援の福谷浩司が逆転を許し、プロ初勝利がスルリと消えた。

 ドラフト制以降、先発デビューした高卒新人の中で、リリーフが打たれて白星が消えたのは、67年の高垣義浩(大洋)、93年の牧野塁(オリックス)、00年の河内貴哉(広島)に次いで4人目のアンラッキー。そして、小笠原にとって、さらなる不運が待っていた。

 2度目の先発、6月7日のオリックス戦(京セラドーム大阪)も5回を5安打2失点に抑えたが、勝利目前の最終回に、開幕から31試合連続無失点のプロ野球記録を継続中の〝タジ魔神〟田島慎二がまさかの同点打を許し、デビューから2試合続けて勝ち投手が消えるという史上最もツイていない高卒新人となった。

 その後も勝利の女神はそっぽを向きつづけ、8月20日のDeNA戦(ナゴヤドーム)も7回2失点ながら、打線の援護なく1対2で敗れ、ついにセリーグでは50年の金田正一(国鉄)の4連敗を更新する高校出身新人ワーストのデビュー5連敗。

 そして、9試合目の先発となった9月4日の巨人戦(東京ドーム)。7回10奪三振の力投を見せた小笠原だったが、中日打線は外国人投手トップタイ14連勝中のマイコラスに7回まで散発の3安打に抑えられ、0対3の劣勢。このままでは、ワースト記録更新は免れそうになかった。

 ところが、8回に〝奇跡〟が起きる。敵失、安打に犠打、犠飛を絡めて1点を返した中日は、小笠原の代打・野本圭の中前タイムリーで1点差に迫った後、大島洋平、エルナンデスの連打で4対3と一気に逆転した。

 9回にも沢村拓一の暴投に乗じて1点を追加。その裏、タジ魔神が3者凡退で3ヶ月前の〝借り〟を返し、小笠原に待望のプロ初勝利をプレゼント。最もツイていない男が地獄から一気に天国へ駆け上った瞬間でもあった。

「やっとスタートラインに立てた。次は2勝目を目指したい」と喜んだが、シーズンが終了した16年秋には左肘を手術。17年は二軍スタートとなったが、一軍復帰は目前に迫っている。

 高卒ルーキーという経歴ながら、度重なる不運にもめげず、不断の努力で自らの運を切り開いてきた。ベテランも霞むほどの〝人生経験〟は、きっとプロ野球選手の肥やしとなるに違いない。

■シーズン2勝目は遠かった……開幕戦勝利の後23試合勝ち星なしの10連敗

東明大貴(オリックス)
9月26日 日本ハムvsオリックス(京セラドーム大阪)

「始め良ければ終わり良し」といわれるが、16年シーズンで「良かったのは始めだけ」で終わったのがオリックスの3年目右腕・東明大貴だった。

 15年シーズンでは自身初の二桁勝利を挙げた東明は開幕5戦目、3月30日の日本ハム戦(札幌ドーム)で今季初登板。6回途中4失点ながら初勝利を挙げ、まずは幸先の良いスタートを切った。

 だが、2度目の先発となった4月6日の楽天戦(京セラドーム大阪)で、先制点を貰いながら、5回3失点で負け投手に。以来、勝てない日々が続く。

 6月10日のDeNA戦(同)では7回を1失点に抑えながら、8回に味方のエラーをきっかけに勝ち越され5敗目。同17日の広島戦(マツダスタジアム)も6回無失点ながら勝ち星に結びつかず、7月13日の日本ハム戦(京セラドーム大阪)では、7回途中まで無失点に抑えたのに、降板後の8回に逆転を許し、ほぼ手中にしかけた2勝目が消えてしまった。

 さらに8月30日のロッテ戦(QVCマリン)でも、3点リードを貰いながら、角中勝也に同点3ランと満塁の走者一掃の逆転三塁打を浴び9敗目。

 そして、9月26日の日本ハム戦(京セラドーム大阪)での先発がシーズン2勝目へのラストチャンスになった。

 相手はマジック3と4年ぶりVを目前に気合十分だったが、東明にとっても長いトンネル脱出がかかった大事な一戦とあって、負けるわけにはいかない。

 そんな気迫が功を奏してか、4回まで散発3安打無失点に抑えた。

 だが、両チーム無得点で迎えた5回無死、陽岱綱に高めに浮いたスライダーを左中間席に運ばれ、初失点。6回にも無死二塁から大谷翔平に右前タイムリーを浴び、次打者・中田翔にも左越え二塁打を許したところで、無念の降板。ついに10連敗となった。 連敗の中には前述のとおり、エラー絡みで勝ち越されたり、リリーフに勝ちを消された不運な試合もあったが、本人は「これが今の実力。結果を残せず悔しい気持ち」と謙虚に受け止め、「失点した場面は早いカウントから打たれたことが多かった」と反省する。  

 ちなみにプロ野球ワースト記録のシーズン15連敗の梶本隆夫(阪急)、足掛け3年で15連敗の川越英隆(オリックス-ロッテ)は奇しくもチームの先輩という因縁話までついてきてしまった。

 いよいよ17年シーズンが始まり、再建が期待されるオリックスの「投手王国」に東明大貴の名前も挙がっている。まだまだ続く、長い試練を乗り越えたときこそ、2人のようにエースと呼ばれる日が来るはずだ。