GIマークというものを、ご存じだろうか。
非常に簡略化して説明すれば、「地域の特産農作物などで、国が本物だと保証するマーク」ということになる。
地域で長年培われた独特の生産方法や、気候・土壌・風土などの生産地特性を背景に、高い品質や評価を獲得するに至った農作物や商品が、全国には数多くある。その名称などを知的財産として保護していこう、というわけだ。
わが国では2015年6月から施行された「地理的表示法(特定農林水産物等の名称の保護に関する法律)」に基づき、農林水産物・食品に係る地理的表示、つまりGIマーク制度の運用が開始されている。
具体的には「あおもりカシス」「丹波牛」「神戸ビーフ」「夕張メロン」「鳥取砂丘らっきょう」「三輪素麺」など、20品目以上が登録済みだ。
マークは写真の通り、大きな日輪を背負った富士山と水面をモチーフに、日本国旗の日輪の色である赤や伝統・格式を感じる金色を使用している。
■―――――――――――――――――――― 【写真】農林水産省公式サイトよりGIマーク
(http://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/gi_mark/)
■――――――――――――――――――――
この制度における特徴は、不正使用の事案が確認された場合、農林水産大臣から除去命令等の措置命令が発出されることだろう。
実はGI制度自体は中国、韓国、インドなど100か国以上が導入しているという。日本は保護国との輸出入において、互いに産品を保護する方向を目指している。農水省は3月、タイと法規や保護運用などの情報交換を実施すると発表した。
一方で、地域団体商標制度という似たものがあることもご存じだろうか。
こちらの管轄は特許庁。ブランド産品などを保護しようと2006年4月より実施されている。地域ブランドの育成に際し、比較的早い段階で商標登録を受けられるようにしたのが主な特徴だ。
特許庁発刊の「地域団体商標事例集2017」によると、「十和田湖ひめます」「横浜なまこ」「鴨川温泉」「小豆島オリーブオイル」など、2016年末現在で598件が登録されている。
とはいうものの、農作物などで〝村おこし〟を目指す人々には、正直なところ、「どっちも似たように見えて、よく分からない」と悲鳴を上げてもおかしくないだろう。そこで地域ブランドの知的財産権問題に詳しい、白坂一・弁理士にGI制度と地域団体商標との違いについて解説を依頼した。
「GI制度は、地域の共有財産を保護する制度であり、地域団体商標制度は地域ブランドの名称を『商標権=出所表示』として登録し、その名称を独占的に使用できるようにしたものです」
キーワードは「独占的」だ。そのため地域団体商標を取得し、更にGIマークを申請するとなると、要注意の重要ポイントがあるという。
「地域団体商標を取得した組合などは、独占的な権利を有しているわけです。一方で、GIマークの取得をすると、そのブランド産品は地域の共有財産となってしまいます。せっかく地域団体商標で得た商標権の行使が不可能になってしまう危険性があるのです」
GIマークの申請時には、もう1つ〝罠〟があることも肝に銘じなければならない。
「どのような製造、または加工が必要か、その特色を的確に記載して申請しなければ、どんな地域でも、どんな人でも生産できてしまいます。保護してもらうつもりが、逆に参入障壁を下げてしまう結果になりかねません。申請書類の作成は、慎重の上にも慎重を期す必要があるでしょう」(同・白坂弁理士)
なんのことはない、GI制度には、地域団体商標で取得した権利を弱体化させる側面も存在するのだ。
しかしながら、こうした問題点を生産者に対処させるのは、本来的には間違いだ。日の丸ブランドを効果的に保護するためにも、国の〝交通整理〟が求められている。
(無料記事・了)